一度成立した特許権を消滅させる手段として特許異議の申し立て(特許法113条)と、特許無効審判(特許法123条)が存在します。

似たような制度ですが、要件が違うので、効果的に使い分けていきましょう。

基本的に、特許異議申し立ては、査定系手続(特許庁と特許権者との間で進められる)で、書面審理のみです。

一方、特許無効審判は当事者系手続(請求人と被請求人(特許権者)との間で進められる)で、原則は口頭審理です。希望すれば書面審理もできます。

料金は、特許無効審判では49,500+(請求した請求項の数×5,500)かかるのに対し、特許異議申し立ての方が安くなっています(16,500+(申立てた請求項の数×2,400))(2015年9月現在)。

ちなみに、どちらも請求項毎に攻撃を仕掛けることができます。

チーたん
競合の特許出願が登録されたよ。
うちで造っている製品はもしかしたら特許権を侵害しているかもしれない。

ふっくん
特許発明の技術的範囲(特許法70条)に入っているかどうか確認してください。

そのうえで、特許権を侵害していると判断したら、先使用権(特許法79条)のような法定通常実施権を有していたり、専用実施権(特許法77条)、通常実施権(78条)、のような実施権の設定登録や許諾を受けているという事実がない場合は、競合の特許を消滅させるという手段が有効になってきます。


チーたん
新規性違反(特許法29条)とか無効理由を見つけたら、特許無効審判(特許法123条)を請求すればいいんだよね?

ふっくん
時期的な要件さえ合えば、特許異議申し立て(特許法113条)の方がいいですよ。名前を隠して請求できますから。

チーたん
いつからいつまで出来るの?

ふっくん
特許権が登録されたらすぐに異議の申し立てができますよ(特許法113条1項)。

特許掲載公報の発行の日から6か月過ぎたらもう特許異議の申し立てはできません。

特許異議申し立て

第百十三条  何人も、特許掲載公報の発行の日から六月以内に限り、特許庁長官に、特許が次の各号のいずれかに該当することを理由として特許異議の申立てをすることができる。この場合において、二以上の請求項に係る特許については、請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。
一  その特許が第十七条の二第三項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願(外国語書面出願を除く。)に対してされ

たこと。

二  その特許が第二十五条、第二十九条、第二十九条の二、第三十二条又は第三十九条第一項から第四項までの規定に違反してされたこと。

三  その特許が条約に違反してされたこと。

四  その特許が第三十六条第四項第一号又は第六項(第四号を除く。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたこと。

五  外国語書面出願に係る特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないこと。

チーたん
特許異議の申立てと無効審判の請求の両方がされたときは、どちらが先に審理されるの?

ふっくん
たとえ特許異議の申立ての方が先にされたとしても、無効審判を優先して審理されます。

チーたん
特許異議の申し立ては誰が出来るの?

ふっくん
誰でも申し立てができますよ。
特許権者に後で恨まれるのが怖いなら、ダミーで他人の申し立ててもらうということもできます。

チーたん
それいいなあ。僕の代わりにふっくんが申し立てておいてよ(笑)

ふっくん
人間じゃないと申し立てはできないと思いますがやってみます(笑)

同好会のような法人でない社団で、代表者の定めがあるものは特許異議申立人になることができるんですけどね(特許法第6項第1項第2号)。

ふっくん
特許異議の申立てについての審理では、特許権者、特許異議申立人又は参加人が申し立てない理由についても、職権で審理されることがあります。

特許権の存在は当事者間だけでなく、広く万人に影響してくるので、疑わしい特許権については消滅させたほうが良いからです。

特許無効審判に比べ、特許意義の申し立ては公益的な側面が強いのです。

ただし、異議の申し立てをされていない請求項についてまでは審理されません。

職権による審理

第百二十条の二  特許異議の申立てについての審理においては、特許権者、特許異議申立人又は参加人が申し立てない理由についても、審理することができる。

2  特許異議の申立てについての審理においては、特許異議の申立てがされていない請求項については、審理することができない。

ふっくん
特許異議の申し立てが認められて、取り消し決定が確定したときは、その特許権は、初めからなかったものとされます(特許法114条3項)。

特許異議申し立ての効果

第百十四条
3  取消決定が確定したときは、その特許権は、初めから存在しなかつたものとみなす。

4  審判官は、特許異議の申立てに係る特許が前条各号のいずれかに該当すると認めないときは、その特許を維持すべき旨の決定をしなければならない。

5  前項の決定に対しては、不服を申し立てることができない。

ふっくん
一方、特許異議の申し立てが認められなかったときは、特許の維持決定がなされます(特許法114条4項)。
これに対しては、不服を申し立てることはできません。

不満だったら特許無効審判(特許法123条)を請求しろってことです。

特許を取り消すべき旨の決定に対しては、特許権者等は東京高等裁判所(知的財産高等裁判所)に決定の取消を求める訴えを提起することができます(特許法178条1項)。

ふっくん
さて、特許異議の申し立てをする理由と特許無効審判を請求する理由は、ほとんど同じですが、2点だけ違います。

一つ目は、特許法38条違反(共同出願違反)と特許を受ける権利(特許法33条)を有しないものについて特許登録がされた場合(冒認出願)には、特許異議の申し立てはできません(特許法123条2項)。

これは、特許権の技術的内容については全く問題がなく、単に当事者間で争うべきことだからです。


チーたん
そうだね。共同研究者を裏切って勝手に特許出願をして特許登録を受けた場合でも特許の内容自体がしっかりしているのなら、困るのは裏切られた人だけだもんね。

ふっくん
二つ目は、権利化後に、条約に違反するようになった等、特許権が設定登録された後の後発的事由です。

特許無効審判

第百二十三条  特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。
一  その特許が第十七条の二第三項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願(外国語書面出願を除く。)に対してされたとき。

二  その特許が第二十五条、第二十九条、第二十九条の二、第三十二条、第三十八条又は第三十九条第一項から第四項までの規定に違反してされたとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされた場合にあつては、第七十四条第一項の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。

三  その特許が条約に違反してされたとき。

四  その特許が第三十六条第四項第一号又は第六項(第四号を除く。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとき。

五  外国語書面出願に係る特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないとき。

六  その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき(第七十四条第一項の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。

七  特許がされた後において、その特許権者が第二十五条の規定により特許権を享有することができない者になつたとき、又はその特許が条約に違反することとなつたとき。

八  その特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正が第百二十六条第一項ただし書若しくは第五項から第七項まで(第百二十条の五第九項又は第百三十四条の二第九項において準用する場合を含む。)、第百二十条の五第二項ただし書又は第百三十四条の二第一項ただし書の規定に違反してされたとき。

2  特許無効審判は、利害関係人(前項第二号(特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に該当することを理由として特許無効審判を請求する場合にあつては、特許を受ける権利を有する者)に限り請求することができる。

3  特許無効審判は、特許権の消滅後においても、請求することができる。

4  審判長は、特許無効審判の請求があつたときは、その旨を当該特許権についての専用実施権者その他その特許に関し登録した権利を有する者に通知しなければならない。

ふっくん
その他に特許異議の申し立てと特許無効審判の相違点として、特許無効審判は、特許権が消滅した後にも請求することができます(特許法123条3項)。

チーたん
え?なんで?

ふっくん
たとえば、特許料の不能により将来的に特許権が消滅した場合でも、過去の特許権の侵害に対しては損害賠償金を請求される可能性がありますよね。

そんなときは、特許無効審判を請求して特許権を遡及的に消滅(特許法125条)、つまりもともと特許権は無かったんだということにできれば、損害賠償金を支払う義務はなくなるのです。


チーたん
そっか!教えてくれてよかったよ。
知らなかったら、過去の侵害に対しては仕方ないからってお金を支払ってしまいそう(^^;)

無効審判の審決確定の効果

第百二十五条  特許を無効にすべき旨の審決が確定したときは、特許権は、初めから存在しなかつたものとみなす。ただし、特許が第百二十三条第一項第七号に該当する場合において、その特許を無効にすべき旨の審決が確定したときは、特許権は、その特許が同号に該当するに至つた時から存在しなかつたものとみなす。

チーたん
特許異議の申し立てや特許無効審判を請求されてしまった側はどうすればいいの?

何か防御手段はないの?

ふっくん
訂正の請求をすることが出来ます(特許法120条の5第2項、特許法134条の2)。
請求項毎に出来ますよ。

特許権者は、専用実施権者、質権者又は職務発明に基づく通常実施権者若しくは許諾による通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得たときに限り、訂正請求をすることができます(特許法120条の5第9項、特許法127条)。
訂正請求書に承諾書を添付する必要があります。

チーたん
何度も訂正請求をしたとき、先にした訂正請求はどうなるの?
ふっくん
先にされた訂正請求は取り下げられたものとみなされます(特許法120条の5第7項)。

訂正の基礎となる明細書等は、設定登録時等の明細書です。

チーたん
特許異議申し立てがあるんじゃ、特許権が設定登録されても、6ヶ月間は安心して眠れないね
ふっくん
そこまで頻繁に申し立てられるものじゃないので大丈夫ですよ(笑)

チーたん
自分の特許に特許異議の申立てがあったら、どうやって知ることができるの?

ふっくん
特許異議の申立てがあったときは、特許権者に「異議番号通知」が送付されますよ。

特許権に専用実施権が登録されている場合は、専用実施権者へも通知がされます(特許法1154項、特許法123条4項)

特許権に対し、重要な関係人ですからね。

チーたん
無効審判は特許権が消滅後にも請求されるっていったけど、それじゃあ、ぼくはずっと安心して眠れないよ!
特許無効審判なんてなくなってしまえばいいのに!
ふっくん
なくなるかもしれませんよ。
現在、特許侵害訴訟の場において、裁判所への訴訟提起と同時に、特許庁への無効審判への請求という2つのことが同時にされています。
これは無駄が多いので、無効審判がなくなって、特許権の無効に対しては、裁判所で一本化されるかもしれませんね。
チーたん
なんだ。それじゃ結局、特許権が無効になる恐怖からは解放されないじゃないか!
ふっくん
自分が特許権を侵害している立場だったら、特許を無効に出来ないのではデメリットでしょう?

特許権者と特許発明(特許法2条2項)を実施(特許法2条3項)する人、双方の立場になって考えてみてください。