出願の束と称されることもあるPCT国際出願。
非常に便利な制度ですので外国へ特許出願する際にはぜひ活用したいものです。

チーたん
PCTってよく聞くんだけど、どういうもの?
ふっくん
特許協力条約のことです。
特許協力条約(PCT)は、工業所有権に関する基本条約であるパリ条約の「特別の取極め」(パリ条約19条)です。

パリ条約 第19条 特別の取極

同盟国は,この条約の規定に抵触しない限り,別に相互間で工業所有権の保護に関する特別の取極を行う権利を留保する。

ふっくん
PCTに加入できるのは、パリ条約の加盟国に限られています。
パリ条約に未加盟の国(台湾など)については、PCTルートでの出願を行うことはできません。
チーたん
え?じゃあ、台湾で特許権が欲しい場合はどうすればいいの?
ふっくん
台湾は、世界貿易機関(WTO)の加盟国なので、WTO加盟国間で優先権主張が認められます。
よって、日本出願に基づく優先権の主張を伴った台湾出願を行うことが可能です。
チーたん
それならいいや
ふっくん
PCT出願の手続は、受理官庁に対して行います(PCT10条)。
日本国民又は居住者が出願人に含まれている場合、日本特許庁又は国際事務局を受理官庁とすることができます(PCT規則19.1、国際出願法2条)。
日本国民等と共同でなら外国人も出願できますが、日本に居所・営業所をもたない外国人・法人のみでは、日本特許庁には出願できないことに注意してください。

受理官庁としての日本特許庁にPCT出願を行う場合、PCT出願書類は日本語又は英語で作成しなければなりません(PCT規則12、国際出願法3条)。
なお、各国への移行段階では、各国が要求する言語による翻訳文が必要になります。

チーたん
いつが国際出願日として認定されるの?
ふっくん
国際出願が、受理官庁に受理された日が国際出願日とされます。
チーたん
支払うべき手数料は国際出願手数料だけでいいのかな?
ふっくん
いいえ。もっといろいろな手数料を支払う必要がありますよ。
PCT国際出願の出願人は、出願から1ヶ月以内に①国際出願手数料(WIPO国際事務局が出願書類を処理するための手数料)、②送付手数料(出願書類を受理官庁が処理し、必要書類をWIPO国際事務局、国際調査機関へ送付するための手数料)、③調査手数料(国際調査のための手数料)を受理官庁(日本の場合、すべての手数料は日本円で支払う)に対して支払います。
チーたん
出願公開みたいな制度はあるの?
ふっくん
優先日より1年6か月後には、留保(64条)等の定めによる場合を除き、出願内容が国際事務局により国際公開されます(条約21条)。
国際公開は、「日本語、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、スペイン語、韓国語、ポルトガル語(「国際公開の言語」)」で出願された国際出願については、その言語で公開されます。それ以外の言語で出願された国際出願は、出願人が翻訳した公開言語のひとつの言語で行われます。

国際公開されると、発明は新規性を失ってしまいますので、その後の関連する発明の権利化が非常に困難となります。
公開された自社特許出願により、後の自社出願が拒絶されて権利化できない、ということにならないように気を付けましょう。

チーたん
国際出願には審査請求みたいな制度もあるの?
ふっくん
国際調査と国際予備審査というものがあります。
全てのPCT国際出願は国際調査されます。
国際調査は、国際出願の請求の範囲に記載された発明に「関連のある先行技術」を発見することを目的とします。出願人に送付される国際調査報告には、関連があると認められた先行技術又は関連技術が記載された文献のリスト、 発明の分類(国際特許分類)、調査を行った技術分野、発明の単一性の欠如に 関する情報などが記載されます。

国際予備審査の請求は、国際出願された発明の特許性に関する判断を国際調査見解書に加えて入手したいときや国際出願を補正したいときなどに、出願人が任意で行います。

特許性の判断材料としては、国際調査見解書だけで十分と考えられますが、もっと補正したい場合や補正後の国際出願で改めて特許性を判断してほしいときに使えます。
何度でもできますからね。

チーたん
国際段階でも補正はできるのかな?
ふっくん
国際調査報告書で特許性が否定的だった場合、出願人は19条補正か国際予備審査の請求をすることになります(条約に定めがないので非公式ですが、コメントをすることもできます)。何もしないで国内移行手続きをとることもできますが、それでは特許される可能性が低いですから費用の無駄ですよね。
チーたん
国内出願と同じように国際段階での補正も重要だね。
国際段階での補正の特徴や注意事項を教えて
ふっくん
PCT国際出願では、国際段階における条約第19条に基づく補正(請求の範囲のみ。1回に限り補正可能)及び条約第34条に基づく補正、さらに国内移行後の補正も認められています。
19条補正をすると、すべての指定国に対して有効な補正として扱われます。
・19条補正の提出先は、WIPO国際事務局です(規則46.2)
・19条補正は、国際出願の一部として各指定官庁に送達されます。
・19条補正は、出願時における国際出願の開示の範囲を超えることはできません(条約19条(2))
・19条補正によって補正された請求の範囲は、出願時の請求の範囲とともに国際公開されます。
・19条補正は、国際調査報告の送付日から2ヵ月又は優先日から16ヵ月のうちいずれか遅い方までに提出しなければなりません。
・19条補正と共に、19条補正の説明書を提出することができます(19条補正の説明書には、補正の根拠を記載するのが通常です)。
チーたん
34条補正というのはどういうもの?
ふっくん
34条補正は、国際予備審査機関に対して提出します(規則66.3)

国際予備審査を請求した出願人は、書面による見解又は国際予備審査報告の作成の開始前であれば、条約第34条に基づき国際出願を補正することができます。34条補正の対象となるのは、請求の範囲だけでなく、明細書、請求の範囲、図面で、補正の回数に制限はありません。

34条補正は、国際予備報告が作成されるまでは何度でもできますが、34条補正の内容を踏まえた国際予備審査を実施してもらうためには、できる限り、国際予備審査の請求時にまず一回提出すべきです。

なお、34条補正は、国際予備審査報告の附属書類として、WIPO国際事務局を経由して各選択国に送達されます。

チーたん
国内段階移行後に認められる補正とはどういうもの?
ふっくん
19条補正、34条補正に加えて、条約第28条及び第41条は、国内移行後にも、各指定官庁において補正の機会を設けることを規定しています。この補正も、国際出願時の開示の範囲を超えることは原則認められませんが、最終的には各指定国の国内法令に従って、補正の手続が行われます。
チーたん
特許法17条に従えばいいんだね
ふっくん
そうです。
さて、国際出願が、権利を取得したい国において実体審査を受けるためには、国内移行期限内に(多くの場合は優先日から30月以内)それぞれの国へ国内移行手続を行わなければいけません(条約22条(1)、同39条(1)(a))。
チーたん
国内移行をするには、どんな手続きをすればいいの?
ふっくん
指定官庁に対し、翻訳文の提出・国内手数料の支払い・国際出願の写しの提出をすることが必要です(条約22条(1))。
チーたん
期間内に国内移行手続きをとらなかったらどうなるの?
ふっくん
国内移行がなかった指定国に関しては、国際出願としての効果を失い、その国の「国内出願」を取り下げたことと同様の結果(多くの場合、その国際出願は取り下げられたものとみなされる)となります(条約24条)。
チーたん
う、気を付けなきゃ
ふっくん
国内移行後は国内出願と同じ扱いですよ。

特許庁ホームページでは、PCT出願に関してフローチャートになったものがダウンロードできますので、参考にしてください。非常によくまとまっていて、わかりやすいですよ