自分の経験やスキルを活かそうと思ったら、同業他社へ転職することになる可能性が高いでしょう。
すると、今の会社に提出した誓約書や就業規則との関係で違法行為になるのではないかと心配する人も多いと思います。
 
そこで、同業他社に転職すると法的に罰則を受けることになるのか、そして、法的責任を追わずに転職するにはどうしたら良いのかお話したいと思います。

なお、ここで話すことは不正競争防止法が絡んでくるので、弁理士志望者はしっかりとお読みください。知財の知識でも解説しています。

ライバル社への転職と営業秘密の保護

 

競合避止義務とは

従業員は、所属する企業と競合する会社・組織に就職したり、競合する会社を自ら設立したりするなどの競業行為を行ってはならないという義務のことを競合避止義務といいます。

会社の就業規則に「退職後、2年間は同業他社への転職を禁ずる」と書かれていることもあるでしょう。

このような義務を設定している会社から競合他社に転職することを考えている人は、「競合避止義務があるから転職できないだろう」「この義務に違反して転職したら訴えられるかもしれない」と不安になるでしょう。

 

特に、研究開発職にいる人や知財部の人、それから多くの顧客情報を扱う営業職の人などは、「営業秘密」を知り得る立場にいることから、不安になるのも当然だと思います。

訴訟になった場合、契約違反になるかどうかは「就業規則や誓約書などに定められた退職後の競業避止義務の内容に合理性があるか」どうかで判断されます。ポイントは、

(1)競業行為を制限する期間
(2)行為を制限する場所的範囲
(3)行為制限の対象となる職種
(4)行為を制限することへの代償の有無
です。

 

従業員が誓約書にサインしていたとしても、このポイントに照らし、合理的ではない契約だと判断されれば、誓約自体が無効となります。

 

しかし、たとえば、「近隣都道府県の同業他社への転職を禁止する」旨の契約は有効と認められるでしょうし、「会社が従業員へ補償金を払った上で2年間同業他社への転職を禁止する」のなら、やはりその契約も有効となるでしょう。

ただし、余程地位が高い場合を除き、一般の社員レベルでは競合避止義務はそれほど気にしなくて良いといえます(地位の高い人は注意してください。取締役に就任していると労働基準法が適用されないため、前職で知り得た職務上の情報を使って「競業避止義務」にあたる取引を行った場合法的措置をとられる可能性が高いです)。

なぜなら、最も重要な「日本国憲法」において「職業選択の自由」が保証されているからです。憲法22条には「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と規定されています。

他の法律、それから会社の規則などよりは憲法の方がずっと上です。

 

とはいっても、同業他社へ転職するのは許されるとしても、「元いた会社の営業秘密を漏らす」ことはご法度です。

 

たとえば、元の会社の顧客情報を利用して営業の電話をかけたり、元の会社の技術情報を利用して新製品を発売した場合には、元の会社から転職後の会社及び転職した人が訴えられる可能性があります。刑罰の適用もあります。

「営業秘密」でない情報なら利用しても構いませんが、「営業秘密」に関しては絶対に転職先企業で開示しないようにしてください。

安易に営業秘密を開示してしまい、逮捕されている転職者はたくさんいます。
逮捕なんてされたくありませんよね。

どんなに高額の年俸を提示されようが、犯罪者になってしまっては割に合いませんよ。

違法になるかどうかわからず心配な場合は弁護士の判断を仰ぐと良いでしょう。

なお、当然ですが、独自のノウハウではなく、働いているなかで普通に養われるようなスキルに関しては転職後の会社で使っても何の問題も起きません。
他にも、ビジネスマナーや一般的な顧客開拓ノウハウ、一般的な事務能力といったものは、営業秘密ではありません。

 

まとめ

あなたには、日本国憲法下、自由に職を選ぶ権利があります。

したがって、会社との間で結んだ契約書や就業規則を気にして転職を躊躇する必要はありません。

 

特に、高いスキルを必要としない仕事の場合には、誓約書があったとしても脅し程度の効果しかない場合も多く、法的に転職先を制限されることは稀です。

入社時によく考えずに誓約書に判子を押してしまった場合は、「よく読まずに捺印した」「押さざるを得なかった」と主張することもできます。

すると、訴訟になったとしても、この誓約書の有効性は疑問視されるでしょう。

 

つまり、この誓約書を基に「契約違反だ」と会社があなたを訴えても会社が勝てる可能性は少ないと考えられます。

 

一方、転職の直前に「競合には転職しない」という誓約書に捺印したのであれば、競合避止義務に同意したということになるので注意が必要です。基本的には従業員の方が有利に扱われることが多いでしょうが、過信はできません。

 

いずれにせよ、重要な立場にいない従業員の場合は、たとえ誓約書にサインをしていたとしても、転職の自由を制限されることはないのですから、気にせずに転職してしまっても大丈夫です。

 

ただし、繰り返しになりますが、営業秘密だけは転職先企業で使わないようにしてください。

 

また、同業他社に転職すると元の会社の人に出会う可能性も高いことから、会社に嘘をついて転職してはいけません。信頼をうしなってしまいますから。

 

同業他社へ転職することは裏切り行為なので後ろめたい気持ちもあるでしょうが、出来る限り円満退職できるように心がけましょう。

なお、私個人は知財業界限定でなら情報をたくさん持っています(業界を健全化したい特許事務所の弁理士さんたちが私にたくさん情報をくれる)のでお問い合わせください。
もちろん無料です。