特許権の設定登録後には訂正審判の請求により特許の内容を訂正することが出来ます。
また、訂正審判を請求しなくても、無効審判や異議申し立てのなかで訂正の請求をすることもできます。
それぞれの共通点や違いに注意しながら学びましょう。

あいぴー
なあ、チーたん。人間の体って特許できないんやろ?
チーたん
当然だよ。なんでそんなこと聞くの?
あいぴー
先週特許査定がきた特許の詳細な説明に「男性体」って書いてあって気になってな・・・
チーたん
え?そんなこと書くわけ・・・
うわーっ!本当だ!
こ、これ弾性体の間違いだよ!
もう特許権は成立しているのだけど、補正できないかな?
ふっくん
請求項ではきちんと書かれているのに詳細な説明では誤記が見られますね。
そんなときは訂正審判を請求しましょう。
チーたん
それってどんなもの?
ふっくん
特許権成立後に明細書等について訂正することが出来る審判です(126条)。
特許権成立後は明細書等は権利書的な役割を果たすため、その内容に変更を認めるべきではありません。
しかし、軽微な瑕疵さえ訂正できないのでは権利者に酷に過ぎます。
そこで、厳しい制限の下、特許権者に訂正することを認めたのです。
チーたん
厳しいって、具体的にはどんな要件が課せられるの?
ふっくん
訂正は、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、明瞭でない記載の釈明、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。
を目的としたものでなければいけません(126条1項但し書き)

第百二十六条  特許権者は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一  特許請求の範囲の減縮
二  誤記又は誤訳の訂正
三  明瞭でない記載の釈明
四  他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。

ふっくん
また、訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであつてはなりません(特許法126条6項)

特許法126条6項

 第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであつてはならない。

ふっくん
さらに、独立特許要件も課せられます(特許法126条7項)

特許法126条7項

第一項ただし書第一号又は第二号に掲げる事項を目的とする訂正は、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。

チーたん
補正と似ているから比較して覚えよっと
ふっくん
請求できるのは、特許権者です(特許法126条1項)。
専用実施権者、質権者又は35条1項、77条4項若しくは78条1項の規定による通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、訂正審判を請求することができます(特許法127条)。
なお、承諾書の提出が必要です(施行規則6条)。
請求の趣旨を補正するときは、新たに承諾が必要となる場合があります。

第百二十七条  特許権者は、専用実施権者、質権者又は第三十五条第一項、第七十七条第四項若しくは第七十八条第一項の規定による通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、訂正審判を請求することができる。

ふっくん
特許権の共有者がその共有に係る権利について請求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければなりません(132条3項)。
特許権者が故意に訂正審判を請求しないようなときには、専用実施権者などが特許権者に代わって請求することができます(特許登録令31条)。

なお、訂正審判については、参加(148条)及び参加の申請(149条)の規定は適用されません

チーたん
実施権者は訂正するかどうか承諾できるなら参加は必要ないもんね。

ふっくん

無効審判等のなかの訂正の請求では参加人がいる場合があるので、注意してくださいね(120条の5第6項、134条の2第5項)

チーたん
訂正できる範囲についてだけど、願書に「最初に」添付した明細書又は図面の範囲内で訂正できる?
ふっくん
それは無理です。
訂正審判の請求の対象は、特許権の設定登録時の「願書に添付した明細書又は図面」です。

当該訂正審判の審決の前に他に訂正審判の審決の確定又は訂正請求が認められた無効審判の審決の確定、訂正請求が認められた特許異議の申立てについての決定の確定があるときは、その際に訂正した明細書又は図面です(特許法128条、同134の2第9項、同120条の5第9項)。

特許法126条第5項
 

第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(同項ただし書第二号に掲げる事項を目的とする訂正の場合にあつては、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(外国語書面出願に係る特許にあつては、外国語書面))に記載した事項の範囲内においてしなければならない。

特許法128条
 

願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の審決が確定したときは、その訂正後における明細書、特許請求の範囲又は図面により特許出願、出願公開、特許をすべき旨の査定又は審決及び特許権の設定の登録がされたものとみなす。

チーたん
無効審判は請求項ごとに請求できるけど、訂正審判も請求項ごとに請求できるの?
ふっくん
はい。
請求項(又は一群の請求項)ごとに訂正を請求することができます(126条3項、134の2第2項、同3項、特許法第131条第3項(134の2第9項で準用する場合を含む)、特許法施行規則第46条の2)。
チーたん
一群の請求項?何それ?
ふっくん
「請求項ごとに 請求」する場合であって、訂正する請求項の間に引用関係があるときは、その関係にある請求項を単位として訂正の請求をする必要があります。この関係を有する請求項の群を「一群の請求項」と呼びます。

たとえば、請求項1が「A,Bからなる〇〇」である場合に請求項2が「Cを含む請求項1に記載の〇〇」、請求項3が「Dを含む請求項1に記載の〇〇」というような関係です。
この場合において、請求項1を訂正すると、請求項2及び請求項3も変わってしまいますよね。すると、請求項1だけを訂正すると権利関係が不明確となってしまい、第三者に不測の不利益を与えることになってしまいます。

チーたん
なるほど。だから引用関係にある場合は「請求項ごと」じゃなくて「一群の請求項ごと」に請求させるのか
ふっくん
一群の請求項が含まれるときに、請求項ごとに訂正審判を請求したいときは、引用形式から独立形式に訂正すれば大丈夫ですよ。

特許法126条第3項
 

二以上の請求項に係る願書に添付した特許請求の範囲の訂正をする場合には、請求項ごとに第一項の規定による請求をすることができる。この場合において、当該請求項の中に一群の請求項があるときは、当該一群の請求項ごとに当該請求をしなければならない。

特許法126条第4項
 

願書に添付した明細書又は図面の訂正をする場合であつて、請求項ごとに第一項の規定による請求をしようとするときは、当該明細書又は図面の訂正に係る請求項の全て(前項後段の規定により一群の請求項ごとに第一項の規定による請求をする場合にあつては、当該明細書又は図面の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全て)について行わなければならない。

チーたん
もしこの要件(126条3項)に違反したらどうなるの?
ふっくん
方式要件違反ですから補正命令の対象となります(133条1項)
チーたん
訂正審判はいつでも請求できるの?
ふっくん
訂正審判は特許権の設定登録後にできます。設定登録前なら補正できますから訂正は必要ありませんよね。
チーたん
特許権の設定登録後ならいつでもできるの?
ふっくん
特許異議の申立て又は無効審判が特許庁に係属した時からその決定又は審決が確定するまでの間は、訂正審判を請求することはできません(126条)。なお、一部の請求項について特許異議の申立て又は無効審判がされているときは、当該特許異議の申立て又は無効審判がされていない請求項についても、当該特許異議の申立て又は無効審判が特許庁に係属した時からその決定又は審決が確定するまでの間は、訂正審判を請求することはできません。

特許法126条第2項

訂正審判は、特許異議の申立て又は特許無効審判が特許庁に係属した時からその決定又は審決(請求項ごとに申立て又は請求がされた場合にあつては、その全ての決定又は審決)が確定するまでの間は、請求することができない。

チーたん
なんで特許異議の申立て又は特許無効審判の係属中に請求できないの??
ふっくん
これを認めると、事件が裁判所と特許庁の間を往復するいわゆるキャッチボール現象が生じてしまうからです。

特許異議の申立て又は無効審判の手続中において審判長の指定する期間に「訂正の請求」をすることができますから訂正審判を請求する必要はありませんよね。

チーたん
訂正請求できるのに訂正審判請求を認めちゃったら審理が遅延するし複雑化するもんね
ふっくん
先ほど「係属中」と言いましたが、特許異議の申立てがされてから又は特許無効審判が請求されてから特許異議申立書副本が権利者に送付(到達)又は審判請求書副本が被請求人に送達されたときまでに請求された訂正審判は、適法な審判請求として扱われます。
訂正できることは権利として認められたものですので、それをみだりに制限するべきではないからです。
チーたん
なるほど。
もし、特許権が消滅していたら訂正審判はもう請求できないの?
ふっくん
そんなことはありません。訂正審判は、特許権の消滅後においても請求することができます。
たとえば、特許権は存続期間の満了(67条)の他にも相続人が無い場合(76条)や独占禁止法による取消(独禁法100条)、料金不能(112条4項)、権利放棄(97条)でも消滅しますが、訂正審判は請求できますよ。
チーたん
特許異議の申立て(113条)や特許無効審判(123条1項)により、全ての請求項に係る特許が取消決定により取り消されたり、特許無効審判により無効にされた後は?
ふっくん
そのときは、請求することができません(126条8項)。
権利は遡及的に消滅してしまう(125条)わけですから。

特許法126条第8項
 

訂正審判は、特許権の消滅後においても、請求することができる。ただし、特許が取消決定により取り消され、又は特許無効審判により無効にされた後は、この限りでない。

チーたん
じゃあ、特許の一部が無効となった場合は?
ふっくん
その他の請求項について訂正審判を請求することができますよ(特許法126条8項、同185条)。
チーたん
訂正審判は、権利が無効とならない限り、何回でも請求できるし、特許権の消滅後でも請求することができるんだね。
ふっくん
そうそう、特許権の消滅後に訂正審判を請求するときにおいて、当該特許権について権利譲渡がされているときの請求人は、消滅時の特許権者ですよ。
ふっくん
さて、 手続についてですが、訂正審判の請求をする者は、審判請求書を特許庁長官に提出します(131条1項)。
チーたん
審判請求書はどんな風に書くの?
ふっくん
当事者及び代理人の氏名又は名称及び住所又は居所、審判事件の表示、そして請求の趣旨及びその理由を記載します。

審判請求の「趣旨及びその理由」は、経済産業省令で定めるところにより記載したものでなければいけません(131条1項、同3項、特許施行規則46条、様式62)。

たとえば、審判請求書の「請求の理由」の欄には、明細書又は図面の訂正と請求項との関係を記載します(特許施行規則46条の2第2項)。この記載に基づいて明細書又は図面も訂正単位(請求項ごと又は一群の請求項)ごとに審理されます。

なお、審判請求書に前記関係の記載がなかったり、その関係が特定できないときには補正を命じられます。

請求書には、訂正した明細書、特許請求の範囲又は図面を添付しなければなりません(131条4項)。

また、請求書及び添付書類については、審理用の副本を1通提出しなければなりません(特許施行規則50条の4)

チーたん
う~ん、なんだかいろいろ決まりがあって間違えてしまいそう・・・。
もし請求書に不備があったらどうなるの?
ふっくん
審判長は、審判の請求が、131条1項3項及び4項の規定に違反したものである場合又は133条2項各号の規定に該当する場合は、補正を命じ(133条1項2項)、これに応じないときは、決定をもってその請求書を却下します(133第3項)

たとえば、先ほど述べたように「一群の請求項」が正確に特定されていないときや、明細書又は図面の訂正と関係する全ての請求項が請求の対象とされていないときには当該記載要件を満たさないので、審判長は、請求の趣旨(及びその理由)が記載要件を満たすものとなるように補正を命じます。
このうち、請求の趣旨に対する補正は、審判請求書の要旨を変更する補正に当たりますが、当該補正命令に応ずるものである限り許容されます(131 の2第1項3号)。

チーたん
じゃあ、請求書の方式じゃなくて実体的要件に違反していた場合は?
ふっくん
審判長は、審判の請求が126条1項ただし書各号に掲げる事項を目的とせず又は特許法126条第5項、第6項若しくは第7項の規定に適合しないときは、請求人にその理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない(165条)とされています。
チーたん
請求項が増える訂正をしてもいいの?
ふっくん
増項訂正は、特許法第126条第1項ただし書きで訂正の目的として規定する「特許請求の範囲の減縮」(1号)、「誤記又は誤訳の訂正」(2号)又は「明瞭でない記載の釈明」(3号)、「請求項間の引用関係の解消」(4号)のいずれにも該当しないので、原則として、特許請求の範囲の請求項数を増加させる訂正は許されません。
ただし、多数項引用形式で記載された一つの請求項を、引用請求項を減少させた請求項とするとき等には、増項訂正は可能です。例えば、請求項1が「a,b又はcを含んだ〇〇」というように3つの発明a,b,cが選択的に記載されているときに、その3つの発明のうち2つを独立請求項1、2にそれぞれ記載したものとして改めることは可能です。
チーたん
あわよくば権利範囲の拡張を・・・と思ったけど、やっぱり厳しいんだね(^^;
あいぴー
なあなあ、訂正審判っていくらかかるん?
ふっくん
49,500円+(請求項の数×5,500円)ですよ
あいぴー
高っ!
請求項を削除するだけなら手数料はかからん?
ふっくん
ざんねんながらその場合でも手数料は必要です。
チーたん
めったにしないと思うけど、全請求項を削除する訂正ってできるの?
ふっくん
できますよ
チーたん
なるほどね。
ところで、訂正審判は特許庁とのやり取りだから拒絶査定不服審判(121条)と同じように参加制度もないよね。審理も口頭審理じゃなくて書面審理なの?
ふっくん
そうです!無効審判のような当事者系審判とは違いますから。
まぁ、審判長は、当事者の申し立てにより又は職権で口頭審理によるものとすることができます(145条2項)けどね。
チーたん
ぼくが申し立てない請求の趣旨についても審理したりするの?
ふっくん
請求人が申し立てない請求の趣旨については審理することはできません(153条3項)
請求の理由については審理できますが(同1項)
ふっくん
なお、訂正審判についても、審理の併合ができますし(154条)、審判長は、当事者を審尋することができます(134条4項)。

また、審判において必要があるときは、他の審判の審決が確定し又は訴訟手続が完
結するまでその手続を中止することができます(168条)

あいぴー
ところで、男性体を弾性体に訂正することは要件違反にならんの?
チーたん
クレームにはきちんと弾性体って書かれていて明らかに誤記の訂正だから大丈夫でしょ
あいぴー
男性体の発明っていうのも魅力的やからそのままでもエエけどなww