審判を請求した後にその請求を取り下げることができることがあります。
といっても、無制限に出来るわけではありません。

チーたん
ねえねえ、産業財産権法には拒絶査定不服審判や無効審判等いろいろな審判があるけど、審判の請求をした後になって、やっぱりいいやっと思うことってあると思うんだ。
そんなとき、どうしたらいいの?
ふっくん
一度した審判の請求は、審決が確定するまでは取り下げることができますよ(特許法155条1項)。

審判の請求の取下げ

第百五十五条  審判の請求は、審決が確定するまでは、取り下げることができる。
2  審判の請求は、第百三十四条第一項の答弁書の提出があつた後は、相手方の承諾を得なければ、取り下げることができない。
3  二以上の請求項に係る特許の二以上の請求項について特許無効審判を請求したときは、その請求は、請求項ごとに取り下げることができる。
4  請求項ごとに又は一群の請求項ごとに訂正審判を請求したときは、その請求の取下げは、その全ての請求について行わなければならない。

チーたん
特許無効審判は請求項ごとに請求することができるけど(123条1項)、審判請求の取り下げも請求項ごとにできるの?
ふっくん
できますよ(155条3項)。実用新案の場合も同じです(実39条の2第6項で準用する155条)。
発明ごとの取り下げは出来ません。
商標法の無効審判の場合は、指定商品・役務ごとに取り下げが可能ですが(商標法56条2項で解く155条3項を準用)、取消審判の場合は請求の一部取り下げは出来ません。特許法155条3項を準用していませんから。

意匠権にかかる無効審判の請求は事件ごとの取り下げしかできません(意匠法で解く155条3項を非準用)。
意匠法には請求項や指定商品なんてないですからね。

なお、答弁書の提出(134条1項)があった後は、相手方の承諾を得なければ取り下げることはできないので気を付けてください(155条2項)。

チーたん
相手もやる気になっているのに「やっぱやめた」なんて言われたら困っちゃうもんね。

ところで、無効審判の請求は請求項ごとに請求したり取り下げたりできるけど、訂正審判も請求項ごとに請求したり取り下げたりできるの?

ふっくん
基本的に、査定系審判については、規定がないので審判請求の一部を取り下げることはできません。
チーたん
えーっと、査定系審判って、拒絶査定不服審判(特許法121条1項、意匠法46条1項、商標法44条1項)、訂正審判(特許法126条1項)のことだっけ(^^;?
ふっくん
補正却下決定不服審判(意匠法47条1項、商標法45条1項)もありますよ。当事者同士が争う審判ではなく、特許庁の査定に関する審判なので、査定系審判と言うのです。

訂正審判の場合は請求項ごとにまたは一群の請求項ごとに請求できますが、請求を取り下げるときは、その全ての請求について行わなければなりません(155条4項)。

ただし、訂正審判の請求の一部を取りやめたいときには、訂正明細書等による補正によって、請求の一部に係る訂正事項を削除することができます(17条の5)。

チーたん
じゃあ、訂正審判じゃなくて、無効審判における訂正請求は取り下げることはできるの?
ふっくん
訂正審判の場合と同じように、請求項ごとまたは一群の請求項ごとに訂正をすることを取りやめたいときは、訂正明細書等の補正によって行うことができますよ(134条の2第7項、17条の5)

134条の2第7項  第一項の訂正の請求は、同項の訂正の請求書に添付された訂正した明細書、特許請求の範囲又は図面について第十七条の五第二項の補正をすることができる期間内に限り、取り下げることができる。この場合において、第一項の訂正の請求を第二項又は第三項の規定により請求項ごとに又は一群の請求項ごとにしたときは、その全ての請求を取り下げなければならない。

ふっくん
ちなみに、実用新案の場合は、訂正があったときに訂正後の明細書等で登録されたものとみなされます(実14条の2第11項)から、訂正請求の取り下げは出来ません。

実用新案権法第14条の2第11項
 

第一項又は第七項の訂正があつたときは、その訂正後における明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面により実用新案登録出願及び実用新案権の設定の登録がされたものとみなす。

チーたん
各法域ごとに審判請求とその取り下げの方法は変わってくるから対比して覚えないと。
ふっくん
四法対照法文集があると対比しやすいですよ。