特許出願戦略を考えるときに絶対に外せないのが、優先権の主張です(特許法41条、パリ条約第4条D(1)等)。
複雑に見えますが、特許法の条文(特許法41条と特許法42条)の要件と効果さえ覚えれば充分です。
チーたんのように、優先権主張の型についてまで勉強してしまうと、勉強した気にはなりますが、試験には出ないと思われるので短期で合格したい人や知財担当者には不要な知識です。
この本のなかに、国内優先権(特許法41条)の利用態様として、「実施例補充型」、「上位概念抽出型」、「発明の単一性利用型」の3タイプがあるって書いてあるのだけど、よくわからないから教えてくれない?
でも、知財担当者はそこまで深く理解しなくても大丈夫ですよ。
国内優先権は複雑ですから、独学で得た知識に頼って特許出願して失敗するよりは、大まかなことを学んで、実際に特許出願するときは、弁理士に任せてしまうのがベストです。
数年経験を積んだら知財担当者一人で出願しても構いませんが、今は弁理士の力を借りましょう。
今のチーたんは、特許法の条文に書かれている時期的要件、主体的要件、手続き的要件、それからちょっとしたテクニックを覚えればOKです。
最初の出願は、出願日から1年4ヶ月後に取り下げ擬制されますが(特許法42条1項)、優先権主張を伴った後の出願の日から、審査請求の請求期間(特許法48条の3)や存続期間(特許法67条)などがカウントされますので、実質的に特許権の存続期間を1年間延長できてお得ですよ。
型の話を聞きたかったんだし(笑)
分かりやすいように吉藤先生の「特許法概説」にでている「実施例補充型」、「上位概念抽出型」、「発明の単一性利用型」という言葉を使いますが、実際にはもうちょっと他の型もありますから、用語は覚えなくていいですよ。
飛ばし読みもOKです!
一度私の話を聞いて頭にイメージしておいて、わからなくなったらまたこのページに戻ってくれば大丈夫です。
では、行きましょう。
基礎出願のクレームと優先権主張出願のクレームは同じでも、優先権主張出願で追加された実施例のせいで、新規事項が追加されたといえますよね。
ですから、その追加された分については優先権の効果は認められません。
「パリ条約による優先権」も同じで、「第一国出願の出願書類の全体には記載されていなかった事項(新しい実施例など)を日本出願の出願書類の全体に記載した結果、日本出願の請求項に係る発明に、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲を超える部分が含まれることとなる場合は、その部分については、優先権の主張の効果は認められない」ことになっています。
たとえば、最初の出願が「A+B」の発明だとしたら、優先権主張出願は請求項に「A+B」と「A+B+C」を記載した出願をすればいいのです。
なお、29条(発明の新規性)等の判断については優先権主張出願については、最初の出願の日ではなく、その日を基準に判断されますので、最初の出願の日の後、優先権主張出願をする前に他人の特許出願や公知行為(発明の発表など)があった場合は優先権主張出願はその他人の出願や公知行為を原因として拒絶されてしまいますから気を付けてください。
また、下の図では、優先権の主張を伴った出願をするときに、クレームに、最初の出願をしたときの発明(A+B)を書き忘れています。
最初の出願は1年4ヶ月後に取り下げ擬制されてしまう(特許法42条1項)のですから、気をつけてください!
※この図では1年3か月と書かれていますが、1年4か月と読み替えてください(H26法改正)。
これは、元の出願にあるクレームと、これとは別のクレームを後の出願に含めるやり方です。
たとえば、先の出願が「物の発明」で、優先権主張出願が「物の製造方法の発明」であった場合において、優先権主張出願が自分のした先の出願によって39条の後願とされてしまいそうな場合に効果的です(特許庁の審査基準では、39条については、出願人が同一でも適用されます)。
たしかに単一性(特許法37条)を満たせば出願審査請求費用や特許権の維持費用を抑えられるんだろうけど、出願人が考えていたよりも最初の発明との差異が大きかった場合、単一性を満たさないから優先権の主張が認められなくなっちゃうよね?
発明者の目から見たら同じでも、審査官や弁理士の目からみたら別の発明かもしれませんからね。
しかし、たとえば、基礎出願が「アップルエキス」のクレームで、詳細な説明に「オレンジエキス」が記載されていただけなのに、優先権を伴った出願のクレームが「フルーツエキス」だった場合には、その他の果物、例えばメロンやバナナは記載されていなかったわけですから新規事項の追加になります。
したがって、上位概念である「フルーツエキス」では優先権の主張が認められません。
優先権が認められるのはアップルとオレンジの部分だけです。
たとえば、誤記の訂正をしたいとかちょっとした補正をしたいときに、有効です。
もちろん、新規事項の追加と認められてしまった場合にはだめですから気を付けてください。
他にも、補正の機会を増やすためにも使えます。
優先権を主張して出願した場合には、「最後の拒絶理由通知」ではなくて「最初の」拒絶理由通知がきますからね。
基本的なことは条文を見れば充分ですから。
先ほどのべたようなことについて詳しく知りたい方は、特許庁の審査基準をご覧下さい。
まず、国内優先権主張の要件ですが、先の出願が既に取下げ、または放棄されていたり、実用新案権の設定登録がなされていたりする場合等、先の出願が一定の例外に該当する場合は、この制度を利用することができません(特許法41条1項)。
時間的な要件として、先の特許出願の出願日から1年以内に出願する必要があります(特許法41条1項1号)。先の出願が複数ある場合は、最先の出願の出願日から1年以内に出願することが必要です。
手続き的要件として、国内優先権を主張した出願をするには、その旨、及び先の出願の表示をした書面(願書に必要事項を記載することにより提出を省略できます。特許法施行規則27条の4)を特許庁長官に提出する必要があります(特許法41条4項)。
主体的要件として、出願人は先の出願と同じであることが必要です(特許法41条1項)。先の出願が共願の場合には、優先権を伴った出願も共同でする必要があります。
したがって、優先権の主張を伴う出願には、先の出願内容を全て含むように記載すべきです。
また、これは既に述べましたが、国内優先権を主張した後の出願内容のうち、先の特許出願に記載されている内容については、先に特許出願をした日に出願をしたものとして扱われ、後の出願のときに追加した内容については、後の出願の出願日に出願したものとして扱われます。
先の出願が複数ある場合については、それぞれの出願日に出願したものとして扱われます。
したがって、新規性(特許法29条)、進歩性(特許法29条2項)、先願(特許法39条)といった特許要件については、それぞれの出願日が判断日となります(特許法41条2項)。
国内優先権を主張した出願は、(国内優先権を主張した後の出願の出願日ではなく)先の出願をした日から1年6ヵ月経過後に出願公開されます。
ただし、審査請求(特許法48条の3)期間や特許存続期間(特許法67条)の起算日は、国内優先権を主張した出願の出願日となります。
特許出願等に基づく優先権主張
第四十一条 特許を受けようとする者は、次に掲げる場合を除き、その特許出願に係る発明について、その者が特許又は実用新案登録を受ける権利を有する特許出願又は実用新案登録出願であつて先にされたもの(以下「先の出願」という。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(先の出願が外国語書面出願である場合にあつては、外国語書面)に記載された発明に基づいて優先権を主張することができる。
ただし、先の出願について仮専用実施権を有する者があるときは、その特許出願の際に、その承諾を得ている場合に限る。
一 その特許出願が先の出願の日から一年以内にされたものでない場合(その特許出願を先の出願の日から一年以内にすることができなかつたことについて正当な理由がある場合であつて、かつ、その特許出願が経済産業省令で定める期間内にされたものである場合を除く。)
二 先の出願が第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る特許出願若しくは第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願又は実用新案法第十一条第一項 において準用するこの法律第四十四条第一項の規定による実用新案登録出願の分割に係る新たな実用新案登録出願若しくは実用新案法第十条第一項 若しくは第二項 の規定による出願の変更に係る実用新案登録出願である場合
三 先の出願が、その特許出願の際に、放棄され、取り下げられ、又は却下されている場合
四 先の出願について、その特許出願の際に、査定又は審決が確定している場合
五 先の出願について、その特許出願の際に、実用新案法第十四条第二項 に規定する設定の登録がされている場合
2 前項の規定による優先権の主張を伴う特許出願に係る発明のうち、当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(当該先の出願が外国語書面出願である場合にあつては、外国語書面)に記載された発明(当該先の出願が同項若しくは実用新案法第八条第一項 の規定による優先権の主張又は第四十三条第一項 、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)若しくは第四十三条の三第一項若しくは第二項(これらの規定を同法第十一条第一項 において準用する場合を含む。)の規定による優先権の主張を伴う出願である場合には当該該先の出願についての優先権の主張の基礎とされた出願に係る出願の際の書類(明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に相当するものに限る。)に記載された発明を除く。)についての第二十九条、第二十九条の二本文、第三十条第一項及び第二項、第三十九条第一項から第四項まで、第六十九条第二項第二号、第七十二条、第七十九条、第八十一条、第八十二条第一項、第百四条(第六十五条第六項(第百八十四条の十第二項において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)並びに第百二十六条第七項(第十七条の二第六項、第百二十条の五第九項及び第百三十四条の二第九項において準用する場合を含む。)、同法第七条第三項 及び第十七条 、意匠法第二十六条 、第三十一条第二項及び第三十二条第二項並びに商標法 (昭和三十四年法律第百二十七号)第二十九条 並びに第三十三条の二第一項 及び第三十三条の三第一項 (これらの規定を同法第六十八条第三項 において準用する場合を含む。)の規定の適用については、当該特許出願は、当該先の出願の時にされたものとみなす。
3 第一項の規定による優先権の主張を伴う特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(外国語書面出願にあつては、外国語書面)に記載された発明のうち、当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(当該先の出願が外国語書面出願である場合にあつては、外国語書面)に記載された発明(当該先の出願が同項若しくは実用新案法第八条第一項 の規定による優先権の主張又は第四十三条第一項 、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)若しくは第四十三条の三第一項若しくは第二項(これらの規定を同法第十一条第一項 において準用する場合を含む。)の規定による優先権の主張を伴う出願である場合には、当該先の出願についての優先権の主張の基礎とされた出願に係る出願の際の書類(明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に相当するものに限る。)に記載された発明を除く。)については、当該特許出願について特許掲載公報の発行又は出願公開がされた
時に当該先の出願について出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされたものとみなして、第二十九条の二本文又は同法第三条の二 本文の規定を適用する。4 第一項の規定による優先権を主張しようとする者は、その旨及び先の出願の表示を記載した書面を経済産業省令で定める期間内に特許庁長官に提出しなければならない。
国内優先権の先の出願の取下げ等
第四十二条 前条第一項の規定による優先権の主張の基礎とされた先の出願は、その出願の日から経済産業省令で定める期間を経過した時に取り下げたものとみなす。
ただし、当該先の出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されている場合、当該先の出願について査定若しくは審決が確定している場合、当該先の出願について実用新案法第十四条第二項 に規定する設定の登録がされている場合又は当該先の出願に基づく全ての優先権の主張が取り下げられている場合には、この限りでない。
2 前条第一項の規定による優先権の主張を伴う特許出願の出願人は、先の出願の日から経済産業省令で定める期間を経過した後は、その主張を取り下げることができない。
3 前条第一項の規定による優先権の主張を伴う特許出願が先の出願の日から経済産業省令で定める期間内に取り下げられたときは、同時に当該優先権の主張が取り下げられたものとみなす。
パリ条約による優先権主張の手続
第四十三条 パリ条約第四条D(1)の規定により特許出願について優先権を主張しようとする者は、その旨並びに最初に出願をし若しくは同条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願をし又は同条A(2)の規定により最初に出願をしたものと認められたパリ条約の同盟国の国名及び出願の年月日を記載した書面を経済産業省令で定める期間内に特許庁長官に提出しなければならない。
2 前項の規定による優先権の主張をした者は、最初に出願をし、若しくはパリ条約第四条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願をし、若しくは同条A(2)の規定により最初に出願をしたものと認められたパリ条約の同盟国の認証がある出願の年月日を記載した書面、その出願の際の書類で明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲及び図面に相当するものの謄本又はこれらと同様な内容を有する公報若しくは証明書であつてその同盟国の政府が発行したものを次の各号に掲げる日のうち最先の日から一年四月以内に特許庁長官に提出しなければならない。
一 当該最初の出願若しくはパリ条約第四条C(4)の規定により当該最初の出願とみなされた出願又は同条A(2)の規定による当該最初の出願と認められた出願の日
二 その特許出願が第四十一条第一項の規定による優先権の主張を伴う場合における当該優先権の主張の基礎とした出願の日
三 その特許出願が前項、次条第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)又は第四十三条の三第一項若しくは第二項の規定による他の優先権の主張を伴う場合における当該優先権の主張の基礎とした出願の日3 第一項の規定による優先権の主張をした者は、最初の出願若しくはパリ条約第四条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願又は同条A(2)の規定により最初の出願と認められた出願の番号を記載した書面を前項に規定する書類とともに特許庁長官に提出しなければならない。ただし、同項に規定する書類の提出前にその番号を知ることができないときは、当該書面に代えてその理由を記載した書面を提出し、かつ、その番号を知つたときは、遅滞なく、その番号を記載した書面を提出しなければならない。
4 第一項の規定による優先権の主張をした者が第二項に規定する期間内に同項に規定する書類を提出しないときは、当該優先権の主張は、その効力を失う。
5 第二項に規定する書類に記載されている事項を電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。)によりパリ条約の同盟国の政府又は工業所有権に関する国際機関との間で交換することができる場合として経済産業省令で定める場合において、第一項の規定による優先権の主張をした者が、第二項に規定する期間内に、出願の番号その他の当該事項を交換するために必要な事項として経済産業省令で定める事項を記載した書面を特許庁長官に提出したときは、前二項の規定の適用については、第二項に規定する書類を提出したものとみなす。
6 第二項に規定する書類又は前項に規定する書面を提出する者がその責めに帰することができない理由により第二項に規定する期間内にその書類又は書面を提出することができないときは、同項又は前項の規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその書類又は書面を特許庁長官に提出することができる。
7 第一項の規定による優先権の主張をした者が前項の規定により第二項に規定する書類又は第五項に規定する書面を提出したときは、第四項の規定は、適用しない。
パリ条約の例による優先権主張
第四十三条の二 パリ条約第四条D(1)の規定により特許出願について優先権を主張しようとしたにもかかわらず、同条C(1)に規定する優先期間(以下この項において「優先期間」という。)内に優先権の主張を伴う特許出願をすることができなかつた者は、その特許出願をすることができなかつたことについて正当な理由があり、かつ、経済産業省令で定める期間内にその特許出願をしたときは、優先期間の経過後であつても、同条の規定の例により、その特許出願について優先権を主張することができる。
2 前条の規定は、前項の規定により優先権を主張する場合に準用する。
第四十三条の三 次の表の上欄に掲げる者が同表の下欄に掲げる国においてした出願に基づく優先権は、パリ条約第四条の規定の例により、特許出願について、これを主張することができる。
日本国民又はパリ条約の同盟国の国民(パリ条約第三条の規定により同盟国の国民とみなされる者を含む。次項において同じ。) 世界貿易機関の加盟国
世界貿易機関の加盟国の国民(世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書一C第一条3に規定する加盟国の国民をいう。次項において同じ。パリ条約の同盟国又は世界貿易機関の加盟国2 パリ条約の同盟国又は世界貿易機関の加盟国のいずれにも該当しない国(日本国民に対し、日本国と同一の条件により優先権の主張を認めることとしているものであつて、特許庁長官が指定するものに限る。以下この項において「特定国」という。)の国民がその特定国においてした出願に基づく優先権及び日本国民又はパリ条約の同盟国の国民若しくは世界貿易機関の加盟国の国民が特定
国においてした出願に基づく優先権は、パリ条約第四条の規定の例により、特許出願について、これを主張することができる。
3 前二条の規定は、前二項の規定により優先権を主張する場合に準用する。
チーたんはまだ特許法の条文に慣れていませんからね。
実務的にもまだ慣れていない知財担当者が出願するときは、念の為、弁理士の助言を仰いでくださいね。
失敗してしまったらせっかくの発明を無駄にしてしまうので大損害ですからね。
今日は疲れたから明細書を書くのは止めて休むよ
一緒に胡麻豆腐でも食べましょう♪