知的財産権を侵害された場合にとりうる手段の一つに差し止め請求という方法があります(特許法100条実用新案法27条、商標法36条、意匠法37条)。

これは、現在または将来の知的財産権の侵害を迅速に停止させることが出来るので非常に有効な手段です。

チーたん
知的財産権を侵害されたときには、まず、損害賠償請求を起こせばいいの?

ふっくん
一番最初にすべきことは、相手の実施しているものが、自己の知的財産権の侵害になるかどうかの判断です。
無効だったり、傷のある権利に基づいて訴訟を提起したら、相手に無駄な手間を取らせることになってしまいますからね。

特許なら技術的範囲(特許法70条)に入るかどうか、商標権なら指定商品・指定役務についての同一または類似の商標の使用かを訴訟提起前にしっかり調べなければいけません。

特に実用新案権に関しては、無審査で登録されることから、訴訟提起前に実用新案技術評価書(実用新案法12条)の提示が義務付けられています。

知的財産権を侵害されていることに気づいたら、カッとしてすぐに訴訟提起だ!と考えてしまいますが、侵害訴訟を提起される側の気持ちになって冷静に判断すべきです。

落ち着いて判断したうえで、やはり知的財産権の侵害だと判断した場合には、まずは相手方に対し警告をしましょう。


チーたん
そしたら損害賠償請求だね!?

ふっくん
現在も相手が知的財産権の侵害品を作っているのなら、それをやめさせる方が効果的です。ですから、まずは差し止め請求をしましょう。

差止請求は、知的財産権が侵害されているときに、その侵害行為をやめさせられる手段です(特許法100条実用新案法27条、商標法36条、意匠法37条)。


差止請求権

第百条  特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

2  特許権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(物を生産する方法の特許発明にあつては、侵害の行為により生じた物を含む。第百二条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

ふっくん
現在と将来に渡っての侵害行為を止めることが出来るので有効な手段です。特に、日本では、知的財産権を侵害されたときの損害賠償額が低いことから、知的財産権の侵害行為を発見した場合は、最初に検討すべき手段です。

侵害する危険性を秘めた相手に対し、侵害の予防も請求することができるんですよ。

また、侵害の結果製造された物の廃棄や、侵害物を造るための設備の除却等も請求することができます。


チーたん
めっちゃいいね!
でも、自分が差し止め請求される側になったら怖いな・・・

ふっくん
そうですね。
特許権の存在を知らずに特許発明(特許法2条2項)を実施した場合でも特許権の侵害になってしまいますからね。

パテントトロールに目を付けられたら大変です。

それから、標準技術を利用するためにパテントプールに参加していた場合に、規格に使われた技術の特許権者が後になって権利を主張し、高額な実施料を請求してくる可能性もあります。

チーたん
自分は実施していないのに、他人が特許発明を実施すると差し止めをしてくるような行為はどうなの?
産業の発達を阻害するよね。
発明は実際に使わなきゃ!

ふっくん
特許権は独占権だけでなく、排他権でもありますから、それは許容されているのです。

ただ、自身が全く実施していないのに、他人の実施は許さないというのでは、チーたんが言ったとおり、、産業の発達を阻害します(特許法1条法目的)。

したがって、3年以上実施されていない特許は強制的に実施権の設定がされます。

不実施の場合の通常実施権の設定の裁定

第八十三条  特許発明の実施が継続して三年以上日本国内において適当にされていないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる。ただし、その特許発明に係る特許出願の日から四年を経過していないときは、この限りでない。

2  前項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許庁長官の裁定を請求することができる。

ふっくん
また、利用発明(特許法72条)の促進のために、クロスライセンスの設定も考えられます(特許法92条)

自己の特許発明の実施をするための通常実施権の設定の裁定

第九十二条  特許権者又は専用実施権者は、その特許発明が第七十二条に規定する場合に該当するときは、同条の他人に対しその特許発明の実施をするための通常実施権又は実用新案権若しくは意匠権についての通常実施権の許諾について協議を求めることができる。

ふっくん
公共の利益のために通常実施権の設定の裁定 が行われることもあります(特許法93条)。

公共の利益のための通常実施権の設定の裁定

第九十三条  特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる。

ふっくん
上記のような裁定通常実施権が設定されると、差し止め請求は認められません(特許法100条実用新案法27条、商標法36条、意匠法37条)。

また、民法1条3項の権利濫用法理に基づいて認められない場合もあります。

チーたん
知的財産権が共有の場合はどうなるの?
特許権が共有のときは、特許発明(特許法2条2項)の実施は各自自由にできるけど、売るときには他の共有者の同意がないとダメなんだよね?

ふっくん
差し止め請求については、特許権が共有の場合でも、各自が自己の持分権に応じて請求できるものとされています。

いちいち同意を得ていたら迅速な救済になりませんからね。

共有特許の場合でも、差止め請求については、自己の持分権に応じて個々が請求できるものとされています。


共有に係る特許権

第七十三条  特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができない。

2  特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。

3  特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。

ふっくん
なお、さらに迅速な救済を求める場合には、裁判所に対して侵害行為の停止を求める仮処分の申請をすることができます。
チーたん
差し止め請求って、強力だね。
侵害訴訟を起こす側にはいいけど、
被告になったら怖すぎる~(@@)