通常実施権とは、設定行為で定めた範囲内において行として特許発明を実施するための実施権のことを言い(特許法78条2項)、特許権者または専用実施権者が設定することができます(特許法78条1項、同77条4項)。
通常実施権は特許権者の許諾のみによって効力を生じます。
このように簡単に設定できる反面、単に特許発明を適法に実施できるだけという債権的な権利に過ぎないため、特許権者は通常実施権の許諾後も自らが特許発明を実施したり第三者に通常実施権を設定・許諾することができます。
ということは、通常実施権の許諾を受ける側には不満が残りやすいといえます。
そこで、実務上では独占的通常実施権というものが認められています。
せっかく安くはないお金を払って通常実施権の許諾を受けているのだからこういうことは止めてほしいよ。
ふっくん、何かいい方法はないかな?
特許権者自身も実施しないことを約束したものを完全独占的通常実施権といい、特許権者自身の実施を留保したものを不完全独占的通常実施権といいます。
現在のチーたんの会社とX社との契約ではそのような約束が交わされていないので、チーたんの有する通常実施権は非独占的通常実施権です。
たとえば、第三者が勝手に特許発明の実施をしていたとしても、独占的通常実施権の侵害であるとして差し止め請求を行うことは認められません*。
*ただし、「特許権者は独占的通常実施権者に独占的な実施を可能とする義務を負うべきもの」と解すべきであり、特許権者が第三者の特許権侵害行為を放置しているために独占的通常実施権者の独占的地位が害されている場合には、独占的通常実施権者は、事故の独占的地位の維持・回復を図るために、特許権者が侵害者に対して有する差止請求権を代位行使しうると解する余地があります。
そもそも通常実施権者には当然対抗制度が認められているからぼくが承諾しなくても特許権はX社から他人に譲渡されてしまうこともあるし、この点は心配だなあ。
誰が実施権者となるかによっては特許権者が取得する実施料収入にも影響を及ぼしますから特許権者の知らないところで勝手に実施権者が変わったり、質権が設定されることのないように定められた規定です。
特許権を譲渡するときには通常実施権者の承諾を必要としないのに放棄するときに承諾を必要とするのはなぜだろう?
しかし、特許権が通常実施権者に知らされないまま突然放棄されてしまうとそのような通常実施権者の期待を裏切ることになります。
したがって、特許権者は特許権を通常実施権者の承諾なしに譲渡することはできますが、放棄することはできないとされているのです。
放棄に限らず、特許料不納による特許権の消滅も通常実施権者には困ったことになるので、特許権者が特許料を納付しない場合には通常実施権者は利害関係人として特許料が納付できますし(特許法110条)、無効審判が請求されたら通常実施権者は審判に参加することができますし(特許法148条)、特許権者が訂正をする場合には通常実施権者の承諾を要するとされています(特許法127条、同134条の2第9項)。
たとえば、製造数量が一万個までと決められているのにそれを超えて製造した場合には、単なる債務不履行にとどまらず、特許権の侵害とされてしまいます。