かつては、冒認とは「発明者でないもので、その発明について特許を受ける権利を承継していないものが出願し、特許を受けること」と定義されていました。
今は違いますよ!

チーたん
大変だ!
ぼくのした発明を他社の人に見せたら勝手に特許出願されちゃってたよ!
どうにかできない?
ふっくん
冒認出願されてしまったのですね。
チーたん
冒認出願って何?
ふっくん
特許を受ける権利を有していない者が他人の発明を出願することを冒認出願といいます。
冒認出願は拒絶理由(特許法49条7号)、及び無効理由(特許法123条1項6号)となっています。

冒認出願には、無権利者が真の権利者に無断で特許出願を行う場合や
真の権利者が自ら出願した後に無権利者が虚偽の出願人名義変更届を提出するなどして、出願人名義を無権利者に変更する場合などがあります。

発明者といえども、特許を受ける権利を第三者に譲渡すれば、当該発明を出願する資格を失うわけですから、発明者が特許を受ける権利の譲渡後に自ら行った出願は冒認出願となります。

チーたん
ぼくの発明を取り戻したいよ。どうしたらいい?
ふっくん
ただ単に相手の特許権を無効にするだけでは第三者もその発明を実施できてしまうので、できることならチーたんが特許権者になりたいですよね。
チーたん
うん!
ふっくん
特許権成立前でしたら、出願人名義の変更をすれば大丈夫です。

具体的には、まず、チーたんが特許を受ける権利を有することの確認を裁判所に求めます。
そして、その確認判決に基づき冒認出願の出願人名義変更届を特許庁に提出し、チーたんがその特許出願の出願人となることが出来ます。

チーたん
冒認出願人は素直に名義変更をしてくれるかな?
ふっくん
冒認出願人の協力は不要ですよ。出願人名義変更届はチーたんが一人で特許庁へ提出することができます。

なお、冒認出願に係る拒絶・無効理由の存否は査定時(拒絶査定不服審判が請求されたときは審決時)を基準に判断すべきと解すべきでしょう。
冒認出願が拒絶や無効とされるのは、真の権利者以外の者が特許権を取得することを阻止するためなので、たとえ最初は無権利者による出願であったとしても、査定時までに出願人が真の権利者に変わっていれば、拒絶理由はなくなるわけですから、特許してしまっても問題ないわけです。

一方、冒認出願のまま登録された場合、その特許権は無効理由を有することになりますが(特許法123条1項6号)、登録後であっても、真の権利者であるチーたんが冒認出願により登録された特許権の存在を追認した場合には、無効理由は解消するので、もはや冒認違反を理由として無効審判を請求することはできなくなります。

チーたん
追認なんてしたくないよっ(><)
ふっくん
まあそうでしょうね(笑)
チーたん
特許権が成立してしまったら、もう発明を取り戻せないの?
ふっくん
そんなことありませんよ。
冒認出願に特許権が成立した後は、真の権利者であるチーたんは、冒認特許権の特許権者に対して冒認特許権を移転するように請求することが出来ます(特許法74条1項)。

そして、真の権利者に特許権の移転登録が認められると、当該特許権は最初から真の権利者に帰属していたものとみなされます(特許法74条2項)。

特許権の移転の特例

第七十四条  特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。
2  前項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録があつたときは、その特許権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす。当該特許権に係る発明についての第六十五条第一項又は第百八十四条の十第一項の規定による請求権についても、同様とする。
3  共有に係る特許権について第一項の規定による請求に基づきその持分を移転する場合においては、前条第一項の規定は、適用しない。

チーたん
もし、冒認特許権者が第三者に特許権を譲渡したりして正当権利者である僕が特許権を取り戻すことを妨害してきたらどうすればいいかな?
ふっくん
正当権利者が特許権の移転請求訴訟を提起した場合に、冒認出願者等が正当権利者による特許権の取り戻しを妨害する場合には、当該特許移転請求権を被保全権利とする処分禁止の仮処分が可能となるでしょう。
チーたん
そこらへんはよくわかんないから弁護士に任せる(^^;
ふっくん
なお、共同出願違反も、他の共有者の持ち分を冒認することになりますから、冒認出願された他の共有者には冒認出願の場合と同様の救済が与えられます。
チーたん
もし冒認者から特許権の譲渡や実施権の設定・許諾を受けている人がいたらその人たちはどうなるの?
ふっくん
もしその人たちが特許発明の実施である事業やその準備をしていた場合には通常実施権が認められます(特許法79条の2)。
この法定通常実施権については冒認中用権のところで詳しく説明いたします。
チーたん
冒認者は出願料や特許料を支払っているよね。移転請求が認められた場合には、ぼくはその代金を支払わなければならないの?
ふっくん
そうですね。冒認者は真の権利者であるチーたんにこれら費用の償還を請求しうると解すべきでしょう(生ゴミ処理装置事件参照)。
チーたん
冒認者がぼくの発明をそのまま出願するのではなく、改良を加えて出願した場合でもその特許権の移転請求は認められるの?
ふっくん
そのような場合には、冒認特許権に対する真の権利者の持ち分の限度で移転請求を認めるべきでしょう。
とはいっても、特許権を分割し、請求項ごとに移転請求することは現行法下ではまだ認められていません。
したがって、冒認特許権は冒認特許権者と真の権利者の共有となります。
チーたん
えー?じゃあ、冒認者はぼくの発明を同意なく自由に実施できることになるよね(特許法73条2項)。しかも、僕が自分の持ち分を譲渡したり実施権を設定・許諾する場合には冒認者の同意が必要になってしまうし・・・(特許法73条1項、3項)。
ふっくん
そうなりますね。ここら辺は立法により解決したいところですね。
チーたん
冒認者と仲良く特許権を共有なんてできそうもないよ・・・
ふっくん
さて、話をここで終わらせずに、冒認出願についてもう少しだけ深く考えてみましょう。

たとえば、あいぴーが特許を受ける権利を有する人からその権利を譲り受けた場合において、譲渡代金を支払わなかったために債務不履行を理由として譲渡契約を解除されたり、または詐欺により騙されていたため契約が取り消された場合、譲受人であるあいぴーは民法上、遡及的に無権利者となります。

あいぴー
なんでこういうときにうちが出てくるん(- _-;)
ふっくん
不払いや詐欺という言葉にぴったりなのでつい・・・
他意はありません。
あいぴー
・・・ (`Д´*)
ふっくん
さて、この場合において、あいぴーから特許権を転得した人や実施権の設定・許諾を受けた人はどのように救済すれば良いのでしょうか。
チーたん
んーっと、あいぴーによる特許出願は一種の冒認出願になるのかな。特許を受ける権利を有していないのに特許出願したことになるんだから。
ということは特許権の転得者やあいぴーからライセンスを受けた人は、法定通常実施権(特許法79条の2)が認められるよね。
ふっくん
そうですね。でも、特許法による救済よりも民法による救済を受けた方が、要件や効果の点から保護が厚くなるといえます。

民法においては、契約が虚偽の意思表示により無効(民法94条2項)や詐欺による意思表示の取り消し(民法96条3項)、解除(民法545条但し書き)等により遡及的に消滅した場合の第三者保護規定を設けています。

このうち、たとえば、民法96条3項や545条3項の場合、相当の対価の支払いをしなくて済みますし、特許権をあいぴーから譲り受けた人は、善意である限り、単なる実施権である冒認中用権ではなく、特許権自体を保持できます。

チーたん
じゃあ、民法の規定を優先的に適用してほしいね!
ふっくん
そう解してしまってよいでしょう。
もちろん、自分が逆の立場、つまりあいぴーの不払いによって契約を解除した相手方の立場からしてみればそれは避けたいでしょうが。

まあ、ここら辺は解釈論ですので軽く流すだけで良いでしょう。

さあ、冒認出願についてご理解いただけたでしょうか

チーたん
本当にあいぴーってテキトーで悪いやつだよね
あいぴー
全然理解しとらんやないかいっ(# ゚Д゚)!