特許権の設定登録後には訂正審判の請求により特許の内容を訂正することが出来ます。
また、訂正審判を請求しなくても、無効審判や異議申し立てのなかで訂正の請求をすることもできます。
それぞれの共通点や違いに注意しながら学びましょう。
うわーっ!本当だ!
こ、これ弾性体の間違いだよ!
もう特許権は成立しているのだけど、補正できないかな?
そんなときは訂正審判を請求しましょう。
特許権成立後は明細書等は権利書的な役割を果たすため、その内容に変更を認めるべきではありません。
しかし、軽微な瑕疵さえ訂正できないのでは権利者に酷に過ぎます。
そこで、厳しい制限の下、特許権者に訂正することを認めたのです。
を目的としたものでなければいけません(126条1項但し書き)
第百二十六条 特許権者は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 特許請求の範囲の減縮
二 誤記又は誤訳の訂正
三 明瞭でない記載の釈明
四 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。
特許法126条6項
第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであつてはならない。
特許法126条7項
第一項ただし書第一号又は第二号に掲げる事項を目的とする訂正は、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
専用実施権者、質権者又は35条1項、77条4項若しくは78条1項の規定による通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、訂正審判を請求することができます(特許法127条)。
なお、承諾書の提出が必要です(施行規則6条)。
請求の趣旨を補正するときは、新たに承諾が必要となる場合があります。
第百二十七条 特許権者は、専用実施権者、質権者又は第三十五条第一項、第七十七条第四項若しくは第七十八条第一項の規定による通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、訂正審判を請求することができる。
特許権者が故意に訂正審判を請求しないようなときには、専用実施権者などが特許権者に代わって請求することができます(特許登録令31条)。
なお、訂正審判については、参加(148条)及び参加の申請(149条)の規定は適用されません
無効審判等のなかの訂正の請求では参加人がいる場合があるので、注意してくださいね(120条の5第6項、134条の2第5項)
訂正審判の請求の対象は、特許権の設定登録時の「願書に添付した明細書又は図面」です。
当該訂正審判の審決の前に他に訂正審判の審決の確定又は訂正請求が認められた無効審判の審決の確定、訂正請求が認められた特許異議の申立てについての決定の確定があるときは、その際に訂正した明細書又は図面です(特許法128条、同134の2第9項、同120条の5第9項)。
特許法126条第5項
第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(同項ただし書第二号に掲げる事項を目的とする訂正の場合にあつては、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(外国語書面出願に係る特許にあつては、外国語書面))に記載した事項の範囲内においてしなければならない。
特許法128条
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の審決が確定したときは、その訂正後における明細書、特許請求の範囲又は図面により特許出願、出願公開、特許をすべき旨の査定又は審決及び特許権の設定の登録がされたものとみなす。
請求項(又は一群の請求項)ごとに訂正を請求することができます(126条3項、134の2第2項、同3項、特許法第131条第3項(134の2第9項で準用する場合を含む)、特許法施行規則第46条の2)。
たとえば、請求項1が「A,Bからなる〇〇」である場合に請求項2が「Cを含む請求項1に記載の〇〇」、請求項3が「Dを含む請求項1に記載の〇〇」というような関係です。
この場合において、請求項1を訂正すると、請求項2及び請求項3も変わってしまいますよね。すると、請求項1だけを訂正すると権利関係が不明確となってしまい、第三者に不測の不利益を与えることになってしまいます。
特許法126条第3項
二以上の請求項に係る願書に添付した特許請求の範囲の訂正をする場合には、請求項ごとに第一項の規定による請求をすることができる。この場合において、当該請求項の中に一群の請求項があるときは、当該一群の請求項ごとに当該請求をしなければならない。
特許法126条第4項
願書に添付した明細書又は図面の訂正をする場合であつて、請求項ごとに第一項の規定による請求をしようとするときは、当該明細書又は図面の訂正に係る請求項の全て(前項後段の規定により一群の請求項ごとに第一項の規定による請求をする場合にあつては、当該明細書又は図面の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全て)について行わなければならない。
特許法126条第2項
訂正審判は、特許異議の申立て又は特許無効審判が特許庁に係属した時からその決定又は審決(請求項ごとに申立て又は請求がされた場合にあつては、その全ての決定又は審決)が確定するまでの間は、請求することができない。
特許異議の申立て又は無効審判の手続中において審判長の指定する期間に「訂正の請求」をすることができますから訂正審判を請求する必要はありませんよね。
訂正できることは権利として認められたものですので、それをみだりに制限するべきではないからです。
もし、特許権が消滅していたら訂正審判はもう請求できないの?
たとえば、特許権は存続期間の満了(67条)の他にも相続人が無い場合(76条)や独占禁止法による取消(独禁法100条)、料金不能(112条4項)、権利放棄(97条)でも消滅しますが、訂正審判は請求できますよ。
権利は遡及的に消滅してしまう(125条)わけですから。
特許法126条第8項
訂正審判は、特許権の消滅後においても、請求することができる。ただし、特許が取消決定により取り消され、又は特許無効審判により無効にされた後は、この限りでない。
審判請求の「趣旨及びその理由」は、経済産業省令で定めるところにより記載したものでなければいけません(131条1項、同3項、特許施行規則46条、様式62)。
たとえば、審判請求書の「請求の理由」の欄には、明細書又は図面の訂正と請求項との関係を記載します(特許施行規則46条の2第2項)。この記載に基づいて明細書又は図面も訂正単位(請求項ごと又は一群の請求項)ごとに審理されます。
なお、審判請求書に前記関係の記載がなかったり、その関係が特定できないときには補正を命じられます。
請求書には、訂正した明細書、特許請求の範囲又は図面を添付しなければなりません(131条4項)。
また、請求書及び添付書類については、審理用の副本を1通提出しなければなりません(特許施行規則50条の4)
もし請求書に不備があったらどうなるの?
たとえば、先ほど述べたように「一群の請求項」が正確に特定されていないときや、明細書又は図面の訂正と関係する全ての請求項が請求の対象とされていないときには当該記載要件を満たさないので、審判長は、請求の趣旨(及びその理由)が記載要件を満たすものとなるように補正を命じます。
このうち、請求の趣旨に対する補正は、審判請求書の要旨を変更する補正に当たりますが、当該補正命令に応ずるものである限り許容されます(131 の2第1項3号)。
ただし、多数項引用形式で記載された一つの請求項を、引用請求項を減少させた請求項とするとき等には、増項訂正は可能です。例えば、請求項1が「a,b又はcを含んだ〇〇」というように3つの発明a,b,cが選択的に記載されているときに、その3つの発明のうち2つを独立請求項1、2にそれぞれ記載したものとして改めることは可能です。
請求項を削除するだけなら手数料はかからん?
ところで、訂正審判は特許庁とのやり取りだから拒絶査定不服審判(121条)と同じように参加制度もないよね。審理も口頭審理じゃなくて書面審理なの?
まぁ、審判長は、当事者の申し立てにより又は職権で口頭審理によるものとすることができます(145条2項)けどね。
請求の理由については審理できますが(同1項)
また、審判において必要があるときは、他の審判の審決が確定し又は訴訟手続が完
結するまでその手続を中止することができます(168条)