知的財産に関する条約はいろいろありますが、その中でも初めて知的財産権の権利行使(エンフォースメント)について規定されたのがTRIPS協定です。
最重要事項についてだけまとめたので、最低限これだけは覚えてください。
なお、2017年1月には改正議定書も発行されています。
知的所有権の貿易関連の側面に関する協定
Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rightsの略称です。
1994年に作成された世界貿易機関を設立するマラケシュ協定の一部(附属書1cを成す知的財産に関する条約です。
昔からあるパリ条約やベルヌ条約は、知的財産権の保護について定めているだけで、権利行使(エンフォースメント)について規定している条約は存在しませんでした。
そのため、WIPOとは別にGATTウルグアイ・ラウンドにおいて交渉が行われTRIPS協定が成立しました。
TRIPS協定で重要なのは①ミニマム・スタンダード(TRIPS協定第1条)②既存の条約との関係(TRIPS協定第2条)③内国民待遇(TRIPS協定第3条)④最恵国待遇(TRIPS協定第4条)⑤権利行使(TRIPS協定第41~61条)です。
まず、①ミニマム・スタンダードですが、これは「TRIPS 協定が定める規範は全加盟国が一律に遵守することが要求される最低基準であり国別の事情に応じた例外は認められないこと」及び「 各国が国内法でTRIPS 協定に定める以上の水準の保護を与えることは何ら妨げられないこと」
の最低基準原則を明示しています。
内国民待遇の原則に反してしまいますから。
他国の国民にも同等の保護を与えなければいけないってことだったっけ?
TRIPS協定はパリプラスアプローチを採っているため、パリ条約の順守はもちろんのこと、さらにそれを上回る取り決めがされています。
すなわち、内国民と同等だけでなく、2国間で内国民待遇を上回る取り決めがされた場合にはその取り決めを他国にも無条件で認めなくてはいけません。
昔、韓国は物質特許を認めていなかったけれど、アメリカにだけは認めていた。でもそれだとアメリカだけを優遇しすぎだから、TRIPS協定の下では、内国民待遇を超えた最恵国待遇を全ての加盟国について認めると。
ベルヌ条約(1971 年パリ改正条約)の実体規定で定められた保護水準をベースとし、それに+アルファするアプローチです。
商標に関しては、登録主義も使用主義も許容しています。
地理的表示については細かく規定されており、日本では商標法、不正競争防止法などでTRIPS協定を順守しています。
さて、TRIPS協定は、知的財産権の権利行使(エンフォースメント)について、条約として初めて規定しています(第3部(第41-61条))。
TRIPS協定第41条には公平かつ公正なものでなければならないとする一般的義務が規定され、42条以下には民事・行政手続それから刑事手続、水際手続の原則について規定されています。
なお、2017年1月に改正議定書が発効されています。
この改正議定書は、特許の「強制実施許諾」等の要件を定めるTRIPS協定第31条(特許権者の許諾を得ていない他の使用)に関し,新たに第31条の2及び附属書を追加し,第31条(f)に規定する加盟国の義務を一定の条件の下で適用しないものとするものです。
簡単に言うと、「人道上、途上国ではエイズの治療薬等の特許権があったとしてもその途上国のために医薬品を製造・輸出する企業に対し、権利行使しないでね」ということです。
通常、特許権が存在する場合、特許権者以外は原則として特許権者から実施許諾(ライセンス)を受けなければ特許発明にかかる物の生産や販売、輸入をすることはできません。
しかし、一定の条件下、政府は特許権者の許諾を得なくても特許発明を実施する権利を第三者に認めることができます(強制実施権)。
ここで、TRIPS協定31条(f)は、「主として国内市場への供給のために許諾される」旨規定されています。
しかし、医薬品の生産能力が不十分だったりそもそも生産能力の無い国においては、外国からの医薬品の輸入に頼らざるを得ませんよね。ですから、医薬品の製造能力を有する国が、自国において特許権が付与された医薬品を途上国への輸出のために生産することにつき「強制実施許諾」を与えることを可能とするため、TRIPS協定上の「強制実施許諾」に関する規定の一部を一定の場合において不適用とする規定(第31条の2)を追加することとしたのです。