意匠法においても先願主義が採用されています。
先出願による通常実施権(意匠法29条の2)と合わせて覚えておきましょう。
さっそく意匠登録出願しようか
従来は、意匠登録を受けることができる出願のほか、拒絶すべき旨の査定・審決が確定した出願などについて、先後願の判断において先願の意匠登録出願として取り扱うことを認めていました。
これに対して、拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定した出願、放棄された出願については公報に掲載されることがなく、いずれも制度上秘密の状態が維持されますが、これらの拒絶が確定した出願、あるいは放棄された出願が、先後願の判断において先願の意匠登録出願として取り扱われていたため、後願の意匠登録出願は、第三者にとってあらかじめ知ることができない意匠によって拒絶されることとなり、拒絶確定出願等の存在を知ることが不可能であることから、技術やデザインの重複開発、重複投資が生じるという問題がありました(ブラックボックスの問題)。
そして、特許の場合と異なって意匠権の効力が登録された意匠と類似する意匠にまで及ぶ(23条)ので、先願の規定の適用においても、先願の意匠と同一の場合のみならず類似する後願の意匠まで拒絶されることとなり、この結果、一旦ある意匠が拒絶されると、これに類似する後願の意匠が拒絶され、更に類似する意匠が、一番最初の拒絶先願に類似していなくても拒絶されてしまうという「拒絶の連鎖」による弊害がありました。
しかし、9条は、意匠登録を受けることができる二以上の競合した出願について、いずれの出願が意匠登録を受けることができるかについて規定すべきものであり、既に先後願の判断において先願の意匠登録出願として取り扱われないとして規定されている取り下げられた出願、却下された出願及び冒認出願に加えて、拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定した出願、放棄された出願についても、先後願の判断において先願の意匠登録出願として取り扱わないこととし、これらの出願によって、同一又は類似する後日の意匠登録出願が拒絶されることがないようにしたのです。
(1) 放棄された意匠登録出願
(2) 取り下げられた意匠登録出願
(3) 却下された意匠登録出願
(4) 拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定した意匠登録出願
それから、冒認出願(意匠の創作をした者でない者であって意匠登録を受ける権利を承継しない者がした意匠登録出願)については、意匠登録出願でないものとみなされます。
まず、他人に係る出願である場合についてですが、同日に出願された類似の意匠が他人に係る出願である場合は、9条2項の規定によって、重複保護の回避の観点から協議により定めた一の意匠登録出願に係る出願人のみしか意匠登録を受けることができないこととなります。
しかし、10条1項に該当するものである場合に限り、本意匠及びこれに係る関連意匠として意匠登録を受けることができます。
なお、同一出願人に対して上記の取扱いをするときは、協議のための時間は必要ないと考えられるため、長官名の協議指令(意9条5項)と審査官名の拒絶理由通知(意9条2項)とを同時に発送することとなっています。
同日に出願された類似する意匠について、他の出願に係る意匠登録を受ける権利が契約により譲渡され、協議に対する届出と共に、一方の出願について他方の出願の意匠を本意匠とする関連意匠の意匠登録出願とする旨の補正があったときは、その補正内容に従って、本意匠及びこれに係る関連意匠として登録をすべき旨の妥当性を判断されます。
同一人による同日の二以上の出願について、意匠が相互に類似するとして、意匠法第9条第2項前段の規定を拒絶の理由とする拒絶通報、及び協議指令書を受け取った場合の対応は、以下のとおりです。
1.日本での出願と同じように、意匠法第10条第1項に規定される関連意匠制度を利用して、一の出願の意匠を本意匠とし、他の出願の意匠はその関連意匠とする補正をします。
なお、手続きは、日本国特許庁に対し、全ての出願についての協議の結果届を提出するとともに、関連意匠とするものについては、手続補正書を提出し、「本意匠の表示」の欄を追加する補正を行います。
2.一の出願を残し、他の出願は取り下げる。
手続は日本国特許庁に対し、全ての出願についての協議の結果届を提出します。また、取り下げる出願が国際意匠登録出願である場合には、WIPO国際事務局に対して、当該出願の意匠に係る国際登録の放棄又は限定の手続を行います。取り下げる出願が国内出願である場合には、日本国特許庁に対し、出願取下の手続を行います。
3.拒絶通報及び協議指令に承服できない場合は、協議対象の意匠とは類似しない旨の意見書を提出します。
手続は、日本国特許庁に対し、全ての出願について意見書を提出します。この場合、協議結果の届出の提出は不要です。
上記の意見書の主張が採用されない場合、また、協議対象の出願すべてに何ら応答をしない場合は、拒絶査定となります。(拒絶査定が確定すると、協議不成立出願として意匠公報に掲載されます。)
なお、日本国特許庁に対して手続を行う場合には、日本国内に住所又は居所を有しない者(在外者)は、日本国内に住所又は居所を有する代理人を通じて手続を行う必要があります。代理人を通じて手続を行う場合には、日本国特許庁に対して当該代理人を届け出る必要があります。
自分の出願した意匠が意3条1項各号に該当するものであって、その出願について拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定したものであるときに、その拒絶された意匠に類似する意匠を他人が出願したとするでしょ。
そしたら、自分は意匠権を持っていないけど実施はしていた場合に後願の意匠権が成立しちゃったら先願の意匠登録出願人はかわいそうだよね?
先出願による通常実施権
第二十九条の二 意匠登録出願に係る意匠を知らないで自らその意匠若しくはこれに類似する意匠の創作をし、又は意匠登録出願に係る意匠を知らないでその意匠若しくはこれに類似する意匠の創作をした者から知得して、意匠権の設定の登録の際現に日本国内においてその意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者(前条に該当する者を除く。)は、次の各号のいずれにも該当する場合に限り、その実施又は準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、その意匠登録出願に係る意匠権について通常実施権を有する。
一 その意匠登録出願の日前に、自らその意匠又はこれに類似する意匠について意匠登録出願をし、当該意匠登録出願に係る意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者であること。
二 前号の自らした意匠登録出願について、その意匠登録出願に係る意匠が第三条第一項各号の一に該当し、拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定した者であること。
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