意匠法においても特許法と同じように、「利用・抵触関係」というものが存在します。
特許法との違いに注意しながら学習しましょう。
ここで、利用関係について定義しておきましょう。
意匠法26条における利用関係とは、「他人の権利内容をそっくりそのまま後願の権利内容に取り入れ、後願の権利を実施すると先願の権利を全部実施することになるが、その逆は成立しない関係」をいうと解します。
他人の登録意匠等との関係
第二十六条 意匠権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その登録意匠がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、特許発明若しくは登録実用新案を利用するものであるとき、又はその意匠権のうち登録意匠に係る部分がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは商標権若しくはその意匠登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、業としてその登録意匠の実施をすることができない。
2 意匠権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その登録意匠に類似する意匠がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠、特許発明若しくは登録実用新案を利用するものであるとき、又はその意匠権のうち登録意匠に類似する意匠に係る部分がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の意匠権、特許権、実用新案権若しくは商標権若しくはその意匠登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、業としてその登録意匠に類似する意匠の実施をすることができない。
もし後願意匠権者等が先願権利者に無断で実施をすれば先願権利の侵害を構成します(37条、69条、民法709条)。
もちろん、同一人の場合には調整の必要がないため、権利侵害にはなりません。
また、同日出願の場合にも調整されません。先後の優劣がつきませんから。
利用にはどんな態様があるの?
部分意匠と完成品とは、「意匠登録を受けようとする方法・対象が異なるため」双方とも適法に登録されるのです。
それから、先願が組物の構成物品で後願が組物の意匠の場合もあげられます。
構成物品と組物とは物品が非類似で双方とも適法に登録されるからです。
さらに、先願が形状のみの意匠で、後願がその形状と模様等との結合意匠の場合も利用関係があります。
たとえば、陶磁器の湯呑に後から絵付けをする場合です。
形状のみの意匠の本質的特徴をそこなうことなく、そっくりそのままとりいれていますからね。
例外として、形状と模様と色彩が混然一体としてできる場合は利用関係が成立しないと解します。
たとえば、プレス加工により湯呑と表面の線書き模様が一体的にできる場合です。
形状をそっくりそのままとりいれているとはいえないからです。
意匠ではなく、特許発明や登録実用新案を利用することはあるの?
たとえば、先願が六角鉛筆の登録実用新案で、後願がその鉛筆に模様を付した意匠である場合、利用関係が成立します。
それから、先願が、フリクションを使った玩具用の車輪に関する特許発明であって、後願意匠がその車輪を使用した自動車のおもちゃである場合も利用関係が成立します。
抵触関係とは、「2つの権利が相互に重複しており、いずれの権利を実施しても他方の権利を全部実施することになる関係をいう」と解します。
意匠法26条1項と2項の後半を読んでみてください。
それから、2項は「その意匠権のうち登録意匠に類似する意匠に係る部分がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の意匠権、特許権、実用新案権若しくは商標権若しくはその意匠登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、業としてその登録意匠に類似する意匠の実施をすることができない。」
条文をよく読めばわかると思いますが、先願意匠権と後願登録意匠に係る部分との間の抵触は規定されていません。
なぜなら、「登録意匠に係る部分がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の意匠権と抵触する場合」というのは、意匠法9条違反の過誤登録の場合であって、無効審判(48条)で処理すべきことだからです。
一方、2項に規定されている通り、「登録意匠に類似する意匠に係る部分」は、他人の意匠権と抵触することがあります。
なお、過誤登録の場合には、先願意匠権者の許諾を要すると解します。利用関係にある場合にすら実施許諾を要するのに過誤登録の場合には許諾を不要とするのはおかしいですからね。
たとえば、机からの転落防止のため、断面を六角形にした鉛筆の考案に実用新案登録がされた場合において、六角形の鉛筆の意匠に意匠登録がされた場合、両権利は抵触します。
たとえば、万年筆についての矢羽印の商標について商標権がある場合に、矢羽を万年筆のクリップに模様として表した意匠に意匠権が付与された場合、両権利は抵触します。
また、たばこやキャラメルの紙容器が、組み立てられた状態では紙容器の意匠であり、展開した状態の図形ではパッケージ商標でもある場合も両権利は抵触します。
先ほどチーたんが話したように、他人の絵をTシャツの模様にした場合には著作権・意匠権間で抵触関係になりますよね。
ところで、後願意匠権者や専用実施権者又は通常実施権者が実施したいと考えた場合、どんな手段をとればいいの?
実施許諾を得られなかった場合には、特許庁長官の裁定を請求します(33条)。
通常実施権の設定の裁定
第三十三条 意匠権者又は専用実施権者は、その登録意匠又はこれに類似する意匠が第二十六条に規定する場合に該当するときは、同条の他人に対しその登録意匠又はこれに類似する意匠の実施をするための通常実施権又は特許権若しくは実用新案権についての通常実施権の許諾について協議を求めることができる。
2 前項の協議を求められた第二十六条の他人は、その協議を求めた意匠権者又は専用実施権者に対し、これらの者がその協議により通常実施権又は特許権若しくは実用新案権についての通常実施権の許諾を受けて実施をしようとする登録意匠又はこれに類似する意匠の範囲内において、通常実施権の許諾について協議を求めることができる。
3 第一項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、意匠権者又は専用実施権者は、特許庁長官の裁定を請求することができる。
4 第二項の協議が成立せず、又は協議をすることができない場合において、前項の裁定の請求があつたときは、第二十六条の他人は、第七項において準用する特許法第八十四条 の規定によりその者が答弁書を提出すべき期間として特許庁長官が指定した期間内に限り、特許庁長官の裁定を請求することができる。
5 特許庁長官は、第三項又は前項の場合において、当該通常実施権を設定することが第二十六条の他人又は意匠権者若しくは専用実施権者の利益を不当に害することとなるときは、当該通常実施権を設定すべき旨の裁定をすることができない。
6 特許庁長官は、前項に規定する場合のほか、第四項の場合において、第三項の裁定の請求について通常実施権を設定すべき旨の裁定をしないときは、当該通常実施権を設定すべき旨の裁定をすることができない。
7 特許法第八十四条 、第八十四条の二、第八十五条第一項及び第八十六条から第九十一条の二まで(裁定の手続等)の規定は、第三項又は第四項の裁定に準用する。
同様に公共の利益のための通常実施権の設定の裁定(特許法93条)もありません。
それから、先願権利を無効審判(48条等)により遡及的に消滅させてもいいですね。
今回は意匠法だけでなく、特許法、商標法、著作権法の勉強もできたからとってもためになったよ!
勤勉なチーたんのためにちょっとしたお話をしてさしあげましょう。
この図柄は有名でないため、チーたんの意匠登録出願は5条2号違反にはならず登録されます。
ただし、意匠権を得たチーたんはその図柄を、鞄の目立たないところに付すようなことはできません。