意匠法においても補正をすることが出来ますが(60条の24)、その補正が要旨の変更だった場合、補正は却下されます。かかる場合に意匠登録出願人がとり得る措置は主に5つほどあります。

チーたん
ショック!補正をしたんだけど、却下されちゃったよ
あいぴー
補正?却下?何やのそれ?
ふっくん
意匠登録出願における補正却下の決定とは、意匠登録出願の願書及び図面等に記載された内容の補充、訂正を認めないとする行政処分をいいます(意匠法17条の2)。

補正の却下

第十七条の二  願書の記載又は願書に添付した図面、写真、ひな形若しくは見本についてした補正がこれらの要旨を変更するものであるときは、審査官は、決定をもつてその補正を却下しなければならない。

ふっくん
意匠登録出願の願書及び図面等については、出願人に手続き的な保護を与えるため、一定要件下において補正が認められています(68条の24)。この補正は遡及効を有するため、その内容を無制限に認めると第三者に不測の不利益を与えるため、要旨を変更するものについては審査官によって補正却下の決定がされます(17条の2)。
チーたん
特許法みたいに不服申し立ての手段はないの?拒絶査定不服審判みたいなやつ・・・
ふっくん
補正却下不服審判の請求ができますよ(47条)

補正却下決定不服審判

第四十七条  第十七条の二第一項の規定による却下の決定を受けた者は、その決定に不服があるときは、その決定の謄本の送達があつた日から三月以内に補正却下決定不服審判を請求することができる。ただし、第十七条の三第一項に規定する新たな意匠登録出願をしたときは、この限りでない。

チーたん
やった!それそれ。
ふっくん
この審判の請求が任用されれば、原決定が取り消され、補正された内容に基づいて審査が進められるので有益です(51条)。
チーたん
誰でも審判請求できるの?
ふっくん
意匠登録出願人がしなければなりません(47条1項)。共同出願の場合は、審決合一確定の要請から、全員で請求する必要があります(準特132条3項)。
チーたん
いつまでにすればいいの?
ふっくん
補正却下の決定謄本の送達の日から3月以内にする必要があります(47条1項)。
ただし、一定要件化、追完(47条2項)、延長(準特4条)が認められます。
チーたん
手続きはどうすればいいの?
ふっくん
審判請求書を特許庁長官に提出し(準特131条)、手数料(67条)を納付します。
なお、審判請求書の「請求の趣旨」の欄には、原決定の取り消しを求める旨の記載をし、「請求の理由」の欄には、却下された補正が要旨変更でないことを主張する記載をします。

補正却下不服審判を請求すると、審決が確定するまで審査が中止され(17条の2第4項)、審判長による方式心理(準特133条)、審判官合議体による適法性審理(準特135条)及び実体審理が行われます。その結果、認容審決が確定すると、その判断は審査官を拘束し(51条)、補正後の内容で審査が再開されます。
なお、棄却審決に対しては、審決取消訴訟を提起できます(59条)。

チーたん
なんで、「その判断は審査官を拘束(51条)」するの?
ふっくん
審判官が決定取り消しの理由とした判断が無視されたのでは、上級審としての審判の意義がなくなるからですよ。
チーたん
なるほど!
ふっくん
それから、拒絶査定不服審判において補正が却下された場合は、本審判を請求できません。この場合は、東京高裁に訴えを提起することになります(59条)。
あいぴー
意味わからんわ(--;
それより早く昼ご飯にしようや
ふっくん
きちんと勉強しているチーたんにならわかりますよね?
チーたん
う、うん・・・(^^;
ふっくん
なお、意匠登録出願人が補正却下決定不服審判を請求したときは、その審判の審決が確定するまでその意匠登録出願の審査を中止しなければならないとされています(17条の2第4項)。
チーたん
どうして?
ふっくん
審査の対象が定まらないからですよ。補正が適法な場合は補正後の状態で審査がされますし、不適法な場合は補正前の状態で審査されることになりますからね。

4  審査官は、意匠登録出願人が第一項の規定による却下の決定に対し補正却下決定不服審判を請求したときは、その審判の審決が確定するまでその意匠登録出願の審査を中止しなければならない。

ふっくん
さて、補正却下の決定に対してとり得る措置として、私は先ほど補正却下不服審判について説明しましたが、他にも4つ程とり得る措置がありますよ。
チーたん
そんなにあるの?!
ふっくん
まず、補正却下後の新出願があります(17条の3)。

補正却下後の新出願とは、補正却下決定謄本送達の日から所定の期間内に、その補正後の意匠についてする新たな意匠登録出願をいいます(17条の3)。

補正却下決定に対しては承服しても、補正後の内容について登録を受けたい場合に、手続き補正書提出時に出願したものとみなされて審査される点で、補正後の内容で通常の出願をし直すよりも有利です(17条の3第1項)。

チーたん
こんなことする必要あるの?別出願したり再度の補正をすればいいじゃない。
ふっくん
補正が要旨変更であると認定されるのは、実際には補正がされてから1年以上も経った後になされることも少なくなく、しかも却下された補正に含まれる意匠について新たな出願をした場合、その出願が1年以上も遅れたままなのは意匠登録出願人に酷なので認められたのです。
チーたん
そっかぁ。なるほど。
ふっくん
主体的・時期的要件は先ほどの補正却下不服審判(47条)と同じです。
手続きは、新出願をするのと同時に、補正却下後の新出願の適用を受けたい旨の書面を提出します(17条の3第2項)。

補正後の意匠についての新出願

第十七条の三  意匠登録出願人が前条第一項の規定による却下の決定の謄本の送達があつた日から三月以内にその補正後の意匠について新たな意匠登録出願をしたときは、その意匠登録出願は、その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなす。
2  前項に規定する新たな意匠登録出願があつたときは、もとの意匠登録出願は、取り下げたものとみなす。
3  前二項の規定は、意匠登録出願人が第一項に規定する新たな意匠登録出願について同項の規定の適用を受けたい旨を記載した書面をその意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出した場合に限り、適用があるものとする。

ふっくん
適法な出願と認められればm出願時が手続き補正所提出時に遡及し(17条の3第1項)、その時点を基準にして新規性(3条1項)、創作非容易性(3条2項)が判断されます。なお、もとの出願は、新出願をするのと同時に取り下げたものとみなされるので注意してください(17条の3第2項)。
チーたん
さっき言った他のとり得る措置って何?
ふっくん
補正後の内容による別出願です(6条)。
これは、補正却下の決定を受けた出願とは別に、17条の3の規定の適用を受けることなく、補正後の内容について新たにする出願をいいます。

先ほどの「補正却下後の新出願」によれば、出願時の遡及効を得られることが出来ますが、もとの出願は取り下げ擬制されてしまいますよね。
でも、別出願をすれば、出願時の遡及効は得られませんが、元の出願と補正後の内容の出願を併存することができます。

時期的要件は特にありませんが、先願主義の下(9条)、急いで出願すべきですし、新規性を喪失している場合には、新規性喪失の例外の適用(4条)を受ける必要があります。

チーたん
補正後の内容が公知になっていなければこれもいいな。
ふっくん
それから、再度の補正をすることもできます(60条の24)。
補正却下の決定によって出願は補正前の内容に戻るため、出願人は、その補正前の内容に基づいて、再度補正をすることができます(60条24)。
要旨変更と判断された補正を参考にして、要旨変更にならない範囲で補正をすべき点に注意してください。
チーたん
補正後の内容の方がよいと判断した場合はこれもいいね。
ふっくん
それから、最後にとり得る措置、というか消極的措置として、「放置」することもできます。

補正前の内容に拒絶理由がなく、その内容で登録を受けても良いと考える場合には、補正却下の決定に対し、何ら手続きをせず、放置することにより、補正前の内容で登録を受けることができます。

ただし、補正前の内容に拒絶理由がある場合に放置すると、その拒絶理由によって拒絶査定(17条)を受けることとなるため、拒絶理由がある場合には放置すべきではありません。

チーたん
拒絶理由がある場合に放置するのは、権利化を望まないときだけにしたほうがいいね。
ふっくん
その通りです。
権利化を希望しない場合には、出願の放棄や取り下げという措置をとることもできますけどね。
チーたん
補正却下の決定を受けた場合にとり得る措置っていろいろあるんだね。
ぼくは、補正後の意匠で権利化したいけど、補正が要旨変更である旨の判断は覆せないだろうし、競合他社が出願している可能性が高いから、補正却下後の新出願(17条の3)をしようかな
ふっくん
いろいろ検討して最適な方法を選んでくださいね
あいぴー
ランチのメニューもいろいろあるで!うちのお勧めは温玉乗せカレーや!
チーたん
カレーもいいけど、天ぷらうどんやヘルシーなアボガドサンドも捨てがたいな・・・
ふっくん
チーたんは優柔不断だったんですね・・・(^^;