一つの製品を開発した場合、その製品に使われている発明について特許出願や実用新案登録出願を考えることはよくあると思います。

でも、その製品の外観、つまりデザインに特徴があって、そのデザインが過去に見たことがないような新規なデザインだった場合、そのデザインを保護するため、意匠登録出願をするということも考えられます。

また、製品のネーミング(名前)についても知的財産権(商標権)を取得することができます。

このように、一つの製品を種々の知的財産権を取得し、多面的に保護することをAIPブレンドと呼んでいます。

さて、全ての知的財産権について権利を取得できればいいのですが、デザインとしては斬新だけれども、発明としては既に公知(知られていた)という場合もあります。

そんなときは、既にした特許出願を意匠登録出願に変更することができますし(意匠法13条1項)、その反対に意匠登録出願を特許出願に変更(特許法46条2項)することもできます。

チーたん
知的財産を出願した後に、権利が発生する前ならその出願を別の知的財産権を取得するために出願変更できるって聞いたんだけど、そんなことできるの?
ふっくん
できますよ。

出願人が、出願形式(特許出願、実用新案登録出願または意匠登録出願)の選択を誤ったり、もとの出願を出願した後に他の出願形式に改めたいと考える場合もあります。

そのような場合に、ただ出願を却下したり取り下げさせるのでは、出願人の保護に欠けます。
そこで、出願の変更を認め、新たな出願はもとの出願の時にしたものとみなすことになりました。

つまり、変更出願の日前、元の出願の日の後に他人の出願があっても、その他人の出願を理由に変更出願は拒絶されることはないのです(特許法49条、意匠法17条)。

ふっくん
この出願変更の戦略的な使い方としては、たとえば、実用新案登録出願をした後に、自分と何の関係もない人が、その実用新案登録出願に係る考案の外観にそっくりな製品を販売している場合に、実用新案権が設定登録されたら、その権利に基づいて権利行使をしようと考えたとします。

その場合に、実用新案権は無審査で登録される(実用新案法14条1項)ことから実用新案技術評価書(実用新案法12条)を提示して警告をした後でなければ、実用新案権の侵害であるとして裁判を起こすことはできません。

そして、実用新案技術評価書の評価が悪かった場合、つまり、その考案に新規性がなく、無効審判(実用新案法37条)を請求されたら実用新案権が訴求消滅(実用新案法41条)してしまう可能性があります。

そのような傷のある権利に基づいて実用新案権を行使すると、・・・どうなるか想像できますよね?

チーたん
民法の権利濫用の法理だっけ?
差し止め請求とか損害賠償請求とか認められないんだよね。

特許権の話だけど、その特許権に無効理由があることが明らかなときはその権利の侵害と言われた人は、権利無効の抗弁ができるんだよね。

ふっくん
そうです。

でも、技術的思想としては無効にされてしまう可能性はあっても、物品の美的外観としてなら新規性がある場合があります。

そう判断したら、実用新案登録出願が登録されてしまう前に、意匠登録出願へ出願変更して、意匠権を取得し、その意匠権に基づいて意匠権の侵害として自社の製品に似ている製品を造っている会社を訴えればいいのです。

チーたん
なるほど。
面白い知財戦略だね!

ところで、出願変更をしたら、もとの出願はどうなっちゃうの?

ふっくん
取り下げたものとみなされます(特許法46条4項、実用新案法10条5項、意匠法13条4項)。
チーたん
元の出願と変更出願の出願人は同じじゃないといけないの?
ふっくん
そうです。出願の変更をすることができる人は、もとの出願の出願人又はその承継人です。

変更出願をするときに出願人が一致していなければいけません(特許法46条第1項、実用新案法10条、意匠法13条)。

チーたん
いつからいつまでできるの?権利が発生してしまったらもうダメなんだよね?

ふっくん
そうです。

実用新案登録出願を特許出願に変更する場合は、その実用新案登録出願の日から3年を経過するまで出来ます(特許法46条1項)。

特許出願から実用新案登録出願に変更する場合は、その特許出願について拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から3か月を経過するまで又はその特許出願の日から9年6か月を経過するまで出来ます(実用新案法10条1項)。

意匠登録出願(意匠権の設定登録がされるまで)を特許出願に出願変更する場合は、その意匠登録出願について拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から3月を経過するまで、又はその意匠登録出願の日から3年を経過するまで出来ます(特許法46条2項)。

意匠登録出願(意匠権の設定登録がされたらもうダメ)から実用新案登録出願に変更する場合は、その意匠登録出願について拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から3月を経過するまで、又はその意匠登録出願の日から9年6か月を経過するまで出来ます(実用新案法10条2項)。


特許出願への変更

特許法第四十六条  実用新案登録出願人は、その実用新案登録出願を特許出願に変更することができる。ただし、その実用新案登録出願の日から三年を経過した後は、この限りでない。

2  意匠登録出願人は、その意匠登録出願を特許出願に変更することができる。ただし、その意匠登録出願について拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月を経過した後又はその意匠登録出願の日から三年を経過した後(その意匠登録出願について拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内の期間を除く。)は、この限りでない。

3  前項ただし書に規定する三月の期間は、意匠法第六十八条第一項 において準用するこの法律第四条の規定により意匠法第四十六条第一項 に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間を限り、延長されたものとみなす。

4  第一項又は第二項の規定による出願の変更があつたときは、もとの出願は、取り下げたものとみなす。

実用新案登録出願への変更

第十条  特許出願人は、その特許出願(特許法第四十六条の二第一項 の規定による実用新案登録に基づく特許出願(同法第四十四条第二項 (同法第四十六条第六項 において準用する場合を含む。)の規定により当該特許出願の時にしたものとみなされるものを含む。)を除く。)を実用新案登録出願に変更することができる。ただし、その特許出願について拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月を経過した後又はその特許出願の日から九年六月を経過した後は、この限りでない。

2  意匠登録出願人は、その意匠登録出願(意匠法第十三条第六項 において準用する同法第十条の二第二項 の規定により特許法第四十六条の二第一項 の規定による実用新案登録に基づく特許出願の時にしたものとみなされる意匠登録出願(意匠法第十条の二第二項 の規定により当該意匠登録出願の時にしたものとみなされるものを含む。)を除く。)を実用新案登録出願に変更することができる。ただし、その意匠登録出願について拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月を経過した後又はその意匠登録出願の日から九年六月を経過した後は、この限りでない。

意匠登録出願への変更

意匠法第十三条  特許出願人は、その特許出願を意匠登録出願に変更することができる。ただし、その特許出願について拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月を経過した後は、この限りでない。

2  実用新案登録出願人は、その実用新案登録出願を意匠登録出願に変更することができる。

チーたん
内容的には何をどんなふうに変更できるの?
意匠は物品の美的外観だけど、特許や実用新案は、技術的思想だから、保護のされ方も表現の仕方も全然違うよね?

ふっくん
変更出願がもとの出願の時にしたものとみなされるためには、

変更出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が、変更直前の(つまり、補正などで削除した事項についてはダメ)&

元の出願の出願当初(つまり、補正などをする前、一番最初に出願した状態)の明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にあることが必要です。

意匠登録出願については、「請求の範囲」がないので、「願書の記載又は願書に添付した図面等」と読み替えて判断されます。

チーたん
意匠の図面から技術的思想が読み取れるの?

絵で書いてあることを言葉で表現するなんて無理じゃない?

ふっくん
そうですね。
意匠登録出願から特許出願への変更はかなり難しいですね。

しかし、可能性はゼロではないので、知的財産戦略の一つとして覚えておいてください。

実用新案登録に基く特許出願

第四十六条の二  実用新案権者は、次に掲げる場合を除き、経済産業省令で定めるところにより、自己の実用新案登録に基づいて特許出願をすることができる。この場合においては、その実用新案権を放棄しなければならない。
一  その実用新案登録に係る実用新案登録出願の日から三年を経過したとき。

二  その実用新案登録に係る実用新案登録出願又はその実用新案登録について、実用新案登録出願人又は実用新案権者から実用新案法第十二条第一項 に規定する実用新案技術評価(次号において単に「実用新案技術評価」という。)の請求があつたとき。

三  その実用新案登録に係る実用新案登録出願又はその実用新案登録について、実用新案登録出願人又は実用新案権者でない者がした実用新案技術評価の請求に係る実用新案法第十三条第二項 の規定による最初の通知を受けた日から三十日を経過したとき。

四  その実用新案登録について請求された実用新案法第三十七条第一項 の実用新案登録無効審判について、同法第三十九条第一項 の規定により最初に指定された期間を経過したとき。

ふっくん
それから、一定の要件を満たさなければいけませんが、実用新案登録を受けた後に特許出願をすることもできます(特許法第46条の2)。

チーたん
え?一度権利が確定したのに?

ふっくん
実用新案権は、特許権と違って、特許庁の審査官により実体審査が行われません。したがって、方式要件さえ満たせば、早期に登録されてしまいます。早ければ1,2ヶ月で登録されることもあります。

しかし、実用新案登録として出願した後になって、やはりもっと長い権利期間が欲しくなった等の理由で実用新案権でなく、特許権の登録を望む場合があります。

そんな権利者の救済のために、実用新案登録出願をしてから3年以内なら、たとえ実用新案登録がされていても、特許出願ができることとなりました(特許法46条の2)。

ふっくん
出願の変更(特許法46条)の次に来ていることから想像できるとおり、一種の出願変更みたいなものです。

出願変更と違うのは、実用新案登録に基づいて特許出願をすると、元の出願は放棄しなければいけないことと(出願を変更した場合は、元の出願は取り下げ擬制。実質的な効果は、放棄と同じ)、実用新案権が設定登録されたあとでもできるということです。

ただし、二重審査の防止のため、すでに実用新案技術評価書の請求がされている場合には、実用新案登録に基づく特許出願はできません(特許法46条の2第1項2号)。他人から実用新案技術評価書の請求がされている場合には、その通知を受けた日から30日以内にしかできません(特許法46条の2第1項3号)。

それから、専用実施権者や質権者、職務発明による通常実施権者(特許法35条1項)、などがいる場合は、その人たちからOKと言ってもらわないと、実用新案登録に基づく特許出願はできません(特許法46条の2第4項)

チーたん
ふ~ん。
ぼくは普段特許出願のことしか考えていなかったけど、実用新案登録出願や意匠登録出願も使い方によっては、知的財産を守る協力な武器防具になるね!
ふっくん
その通りです。
特許権や商標権も大事ですが、他の知的財産権も使いこなしたいですね。