意匠は物品の美的外観であり公知になりやすいため、新規性喪失の例外規定の適用範囲は特許法における適用範囲よりも緩やかです。
なお、国際意匠登録出願に関しては意匠の新規性喪失の例外の特例(意匠法60条の7)があります。
新製品を売り出す前にどれくらい売れるかテスト販売してみたいんだ。
ここで、意匠法における新規性喪失の例外規定とは、意匠法3条1項1号または2号に該当するに至った意匠であっても、その該当するに至った日から6月以内にされた意匠登録出願にかかる意匠についての3条1項及び2項の適用については、一定要件のもとでこれらに該当するに至らなかったものとみなす例外的取扱を言います。
意匠法は意匠の創作を奨励するため、創作に係る意匠を独占権により保護します(23条)。そのため、出願に係る意匠が客観的に創作に係るものであることの基準として新規性(3条1項各号)を規定し、新規性なき意匠は原則として意匠登録を受けることができないこととしています(17条)。
しかし、意匠は物品の美的形態なので(2条1項)、一見してその内容の把握が可能で、人の目に触れればすぐに公知となるため、意に反して新規性を失う場合が多々あります。
また、意匠は時代の流行に左右されやすく、需要者の動向を考慮しつつ製品化する必要もあるため、出願前から売れ行き打診を図る見本の展示や頒布等を行う必要性も高いといえます。
にもかかわらずこのような事情を一切考慮せずに一律に新規性を喪失したものと取り扱うのは、意匠の保護の具体的妥当性にかけ、新規な意匠の創作意欲を減退させることにもなります。
そこで意匠法は一定要件下に新規性喪失の例外を認めて創作の保護の実行を確保する一方、意匠の特質を踏まえて例外適用の範囲を定めています。
意匠の新規性の喪失の例外
第四条 意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠は、その該当するに至つた日から六月以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同条第一項及び第二項の規定の適用については、同条第一項第一号又は第二号に該当するに至らなかつたものとみなす。
2 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同条第一項第一号又は第二号に該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から六月以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同条第一項及び第二項の規定の適用については、前項と同様とする。
ですから、たとえば甲さんが新規な意匠を創作した後にその受ける権利を乙さんに譲渡し、その後甲さんがその意匠を公知にしてしまった場合でも、意匠登録を受ける権利を有する乙さんは新規性喪失の例外の適用を受けられます。
甲さんが受ける権利を乙さんに譲渡する前に公知にしたとしても結果は同じです。
さて、4条1項には「意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して」とありますが、これには脅迫や盗用、それから詐欺などの他にも、秘密にしようとする意思がある限り、不注意により新聞にスクープされた場合等も含まれます。
イケメン記者に尋ねられたら、うちもつい新デザインを公表してしまうかもしれんわ・・・
なお、4条2項の「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して」というのもかなり広く認められます。
展覧会への出品や広告や販売をしても大丈夫なんですよ。
物品の美的外観である意匠は模倣が容易ですから創作者をより保護する必要があります。また、発明に比べ技術の累積的な積み重ねという概念がありませんから第三者の創作活動を阻害する恐れも少ないですからね。
ともかく、急げば大丈夫なはずや!
4条1項、すなわち「意に反して」公知にされてしまった場合はこの証明書の提出は不要です。
意匠法第4条
3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を意匠登録出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。
4 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。
新規性を喪失した意匠と出願にかかる意匠が同一でない場合はどうなるん?