ライセンスについて考えるときに避けては通れないのが専用実施権と通常実施権の要件と効果です。これを知らずしてライセンスをすることは危険ですので、しっかりと学びましょう。
弁理士試験にも必須ですよ!

チーたん
特許権が設定登録されたよ!さっそく実施許諾を受けたいという会社が現れたのだけど、専用実施権と通常実施権どちらを許諾したら良いのだろう?

ふっくん
それぞれメリットとデメリットがあります。
基本的には通常実施権を許諾することになると思いますが、比較するため、専用実施権について詳しく説明いたしましょう。

専用実施権とは、設定行為で定められた範囲(期間・地域・実施内容)内に限り、業として特許発明を独占的・排他的に実施するための権原を言います(特許法77条2項)。
したがって、特許権者でさえも専用実施権が定められた範囲内においては特許発明の実施をすることができなくなってしまいますし、他社に実施権を設定・許諾することも出来なくなります(68条但し書き)。

なお、内容的制限とは、たとえば生産だけ、使用だけというように実施態様(特許法2条3項各号)の一部だけに実施内容を制限したり、複数の請求項のうち一部の請求項の実施だけに制限したり、複数の分野の製品に利用できる特許について分野ごとに実施を制限したりすることです。

チーたん
範囲が重複しなければ複数の専用実施権を設定することはできるんだよね?

ふっくん
はい。

ただし、製造や販売の数量を毎月千個までというように量的に制限して複数の人に設定することはできません。
このようなことを認めると、複数の人に似たような内容の専用実施権を設定できることになってしまうからです

チーたん
もし専用実施権の範囲に制限が課せられている場合にその範囲を逸脱してしまったらどんなペナルティがあるの?

ふっくん
その場合は単なる債務不履行にとどまらず、特許権の侵害となってしまいます。
たとえば、2016年12月までと期間が定められていたのに2017年になっても特許発明の実施を行ってしまった場合は特許権の侵害となります。

チーたん
その場合、2017年1月から製造販売された製品は特許侵害品になるの?

ふっくん
そうなります。ですからその製品を第三者が購入して実施してしまうと第三者の行為も特許侵害となってしまいますので注意が必要です。
もっとも、2017年になる前に専用実施権者によって製造販売された製品に関しては適法なものですが。

チーたん
う~、怖いな(X_X)

チーたん
契約をするときに、専用実施権の範囲だけでなくその他にも実施料の支払いについてとか製品規格についてとか原材料の購入先なんかについても決めたりするだろうけど、もしその契約を破ったらやっぱり特許権の侵害になってしまうの?

ふっくん
それらの契約は専用実施権の設定時に必ずしも必要なものではなく、付随的な取り決めに過ぎません。したがって、専用実施権者がその契約を破って実施行為を行ったとしても、実施行為自体が設定行為の範囲内で行われている限りは特許権の侵害とはなりません。
チーたん
実施料を支払わずに特許製品を製造販売しても特許権の侵害とはならないの?

ふっくん
そうです。専用実施権者は特許権者に対し債務不履行の責任を負うのみです。

チーたん
ぼくが特許権者だったら、そんな不誠実な専用実施権者に対しては契約解除しちゃうよ!

ふっくん
そうなってしまったら契約解除後の元専用実施権者による特許製品の製造販売行為は当然に特許権の侵害となります。

チーたん
ここら辺の権利関係はちょっと複雑だね

ふっくん
一度では覚えられないでしょうから、後で復習しておいてくださいね。

さて、専用実施権は特許権と同じように排他的効力を有している物権的権利です。

正当な権原を有さない第三者が設定行為の範囲内で実施行為を行った場合、専用実施権者は、専用実施権の侵害を理由として差し止め請求及び損害賠償請求をすることができます。


チーたん
特許権の侵害を理由としてではなく?

ふっくん
専用実施権者には固有の権利が認められています。
特許権者は特許権者で差し止め請求や損害賠償請求をすることができますよ。

チーたん
それだと特許権を侵害した人は二重に責められて大変過ぎない?大体、専用実施権を設定後は特許権者はその範囲では自らも実施できないんだから差し止め請求を認める必要性なんてないよね?

ふっくん
それについては最高裁で「専用実施権設定後の特許権者であっても差止請求をすることに固有の利益を求める」とする判例があります。

まず、条文上、専用実施権設定後の特許権者による差止請求権の行使が制限されると解すべき根拠はありません。

次に、専用実施権の設定契約において専用実施権者の売り上げに基づいて実施料の額が決まるような場合、特許権者は実施料収入を確保するため、特許権の侵害を除去すべき現実的な利益があります。

更に、特許権者としては将来において専用実施権が消滅し、自己実施する必要が生じた場合に備えて、予め侵害行為を排除しておく利益があります。


チーたん
なるほど~!

ふっくん
これに対して、損害賠償請求は困難です。直接的な損害はないわけですから。

正当権限を有しない第三者の特許発明の実施により専用実施権者の実施品の売り上げが減り、そのために特許権者の実施料収入が減るというような事情が無い限り特許権者は侵害者に対し損害賠償請求はできないでしょう。

チーたん
そうだよね。

ふっくん
これだけ強力な権利をもつ専用実施権ですから、口約束だけで効力が発生するわけではなく、登録をして始めて効力が発生します(特許法98条1項2号)。

チーたん
特許権者が登録はしてくれていないけど、専用実施権契約をした段階ではまだ専用実施権者ではないの?

ふっくん
その場合は、少なくとも独占的通常実施権者としての地位は認めてもよいでしょう。

また、契約をした以上、特許権者は専用実施権の設定登録に協力する義務を負います。特許権者が協力しない場合、実施権者は特許権者に対し、専用実施権の設定登録手続きを請求し、判決を得て単独で設定登録を行うことができます(特許登20条)。
なお、専用実施権の登録は登録権利者である専用実施権者と登録義務者である特許権者が共同で行うべきものとされていますが(特許登18条)、専用実施権者は特許権者の承諾書を添付して単独で行うこともできます(特許登20条)。


チーたん
ねえ、もし専用実施権者の承諾なく特許権を第三者に譲渡したり、質権の設定をしたらどうなるの?

ふっくん
特に問題は起こりません。
専用実施権は登録が対抗要件といいましたが、権利の存在が公示されているため、専用実施権者は新たな特許権者に対してもその存在を対抗することができるからです。

反対に、専用実施権者が専用実施権を移転したり専用実施権を目的とした質権を設定するときには特許権者の承諾が必要です(特許法77条3項、4項)。


チーたん
誰が実施権者になるかによって実施料収入が変わったりするから特許権者にとっては大問題だもんね

ふっくん
その通りです。
もっとも、相続その他の一般承継の場合等には特許権者の承諾は必要とされていません。
実施権が消滅することになってしまいますからね

チーたん
さっき、ふっくんは、特許権者は専用実施権者の承諾なく特許権を移転等できるって言ったけど、特許権者は専用実施権者に許諾無く特許権を消滅させたりできるの?

ふっくん
それは許されません。
専用実施権が有効に存続するためには特許権が有効に存続していることが絶対条件となります。
したがって、特許権者が特許権を放棄するときには専用実施権者の同意が必要ですし(特許法97条1項)、特許権者が特許料を納付しないときには専用実施権者は利害関係人として特許料を納めることができます(特許法110条1項)。

また、無効審判に利害関係人として参加することができますし’特許法148条3項)、訂正審判又は訂正請求においては専用実施権者の承諾が必要とされています(特許法127条、134条の2第9項)

チーたん
専用実施権はどんなときに消滅するの?

ふっくん
先ほど述べたように特許権の存在が大前提となりますので、特許権が放棄や存続期間の満了や無効審決の確定等により消滅したら一緒に消滅します。

また、専用実施権の放棄や専用実施権の取り消し(独禁法100条)、その他にも設定行為で定めた期間の終了により消滅します。

更には権利の移転により専用実施権者と特許権者が同一人となった場合には混同により消滅します(民法179条2項)


チーたん
専用実施権って通常実施権に比べて強力過ぎるからあまり設定したくないな(^^;

ふっくん
そうですね。実際、あまり使われている制度ではありません。
特許発明を実施したい人も登録が効力発生要件である専用実施権よりも気楽に許諾してもらえる通常実施権を望む場合も多いでしょうし、専用実施権を設定してもらうくらいなら特許権を買い取りたいという人もいるでしょう。

そこらへんは特許戦略の一環としてよく考えてください。

あいぴー
うちは儲かれば何でもエエで

チーたん
だからー、最大の利益を上げるためにこうして知財部員であるぼくが一生懸命学んでいるんじゃないか!

あいぴー
頼りにしてるで、チーたん♡

ふっくん
経営者も少しは知財について学ぶべきですよ。細かなところについては知財部員や外部のコンサルタントに任せてしまっても構いませんが・・・(- -)