特許権は、独占禁止法の例外として認められた強力な独占権です。
しかし、いかなる場合にもその効力を認めてしまうと、産業政策上好ましくありません。
したがって、特許権の効力は、一定の場合には制限されることになっています。
また、日本国外では、その国で特許権を取っていない限り無理です。特許は国ごとに発生しますからね(特許独立の原則)。
逆に言うと、外国だけで権利化されていて日本国内で権利化されていない特許は、後日日本で権利化されない限り使っても大丈夫ですし、チーたんの特許が例えばイギリスで権利化されていなかったら、イギリスで同じ発明を実施している人に何も言うことはできません(属地主義)。
まず、自己実施が制限される場合として、他人の特許権と利用抵触関係にある場合(72条)があげられます。
自分の特許発明が、先に出願された他人の特許発明を利用するとき、又は先に出願された他人の意匠権や商標権と権利が衝突するときは、特許権者といえども自分の特許発明を実施できません。
専用実施権というのは、その人だけに独占して実施することを許す契約であり、専用実施権を設定した場合には、いくら特許権者といってもその発明を実施してはいけません。
どのような契約をするのも自由なので(公序良俗を害する場合は有効な契約とは認められませんが、契約をすること自体は自由です)、特許権の共有者の一方だけが特許発明を独占実施するという契約もありです。
その場合には契約に違反してもう一方の特許権者は実施することはできません。
例えば、薬事法、農薬取締法などによりその製造販売が禁止されている場合には、自己の特許発明であっても業として実施することができません。
例えば、公益的理由から以下の実施には権利行使はできません(69条1~3項)。
①試験・研究のためにする特許発明の実施(同条1項)
試験・研究は技術の進歩に不可欠だからです。
特許性調査(特許権が無効理由を含むか検査すること)や機能調査(特許権のライセンスを受ける前に特許発明が期待する作用効果を有するかをチェックする試験)、迂回研究はこれに該当します。
ただし、試験・研究の結果、生産された物を販売するのは、なしです。
②単に日本国内を通過するに過ぎない船船、航空機又はこれらに使用する機会、器具、装置その他の物(同条2項1号)
国際交通の利便のためです。(参照パリ条約5条の3)
③特許出願時から日本国内にある物(同条2項2号)
公平の原則から、特許出願時に存在する物にまで特許権の効力を及ぼすのは酷だからです。
④2以上の医薬を混合することにより製造される医薬等の発明に係る特許権の効力は、医師又は歯科医師の処方箋により調剤する医薬には及びません(69条3項)
医療行為の円滑化を図るためです。
⑤国際民間航空条約27条に規定のある場合。
航空事業の迅速性と航空の安全性を確保するためです。
⑥特許権に対し、正当な実施権を持っている人
例えば、契約による実施権(77条、78条)、法定実施権(79~82条、176条、裁定実施権(83条、92条、93条)を持っている人に対しては権利行使は許されません。
⑦特許料追納により回復した特許権(112条の3)
特許権が一旦消威した後の実施に、効力を及ぼすのは不当だからです。
⑧再審により回復した特許(175条)
特許権が消滅したものと信じた実施者を保護するためです。
⑨存続期間延長に係る特許権(68条の2)
⑩質権者との間に特約がある場合(95条)
⑪業として以外(個人的・家庭的)の実施
このような場合にまで特許権の効力が及んでしまうのは行き過ぎだからです。
卸業者から小売業者に売ったり、さらにそれを消費者が買います。
このときに、その商品に特許権はずっと付いたままです。誰かに売ったからといって突然特許権がなくなってしまうことはありません。
ですから、特許製品を転売すると、形式的には特許製品を販売していることになり、特許権の侵害になってしまいます。
でも、そんなのおかしいですよね。右から左へ特許製品を流通させているだけなのですから。
なので、転売する場合には、特許権は消え尽きて、特許権者はもはや権利行使をすることができないことになっています