通常実施権の一種である中用権。
重要性は低い条文ですが、弁理士試験一次試験には重要なので必ず学習してください。
また、商標法の中用権(商標法33条)とも比べてみてください。
しかもそれだけならともかく、別の人が同じ発明について特許権を取得しちゃった。
せっかく特許製品をバンバン売っていこうと思っていたところだったのに・・・
ああ・・・。せっかく工場に投資したのに・・・。
中用権がみとめられるかもしれませんからね。
すると、せっかく工場に資本を投下していたのに事業自体を中止せざるをえないことになりますよね。
それでは国家経済的に無駄が生じてしまいます。
もともと特許庁審査官の過誤のせいで無効理由があるにもかかわらず事業設備に投資をしてしまったのに・・・。
そこで、特許無効審判の請求登録(職権による予告登録)の前に、特許に無効理由があることを知らないで、日本国内において発明の実施である事業またはその準備をしている場合、その者は、当該実施または準備をしている発明および事業の目的の範囲内において通常実施権を取得することができるとされています(特許法80条)。
これを中用権と呼びます。
無効審判の請求登録前の実施による通常実施権
第八十条 次の各号のいずれかに該当する者であつて、特許無効審判の請求の登録前に、特許が第百二十三条第一項各号のいずれかに規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許を無効にした場合における特許権又はその際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。
一 同一の発明についての二以上の特許のうち、その一を無効にした場合における原特許権者
二 特許を無効にして同一の発明について正当権利者に特許をした場合における原特許権者
三 前二号に掲げる場合において、特許無効審判の請求の登録の際現にその無効にした特許に係る特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての通常実施権を有する者
2 当該特許権者又は専用実施権者は、前項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。
具体的には必要な機械を購入したんだ。
単に資金の借り入れや宣伝用パンフレットを作っただけでは駄目ですけどね。
・・・でも、正当な特許権者にはちょっと悪い気がするな・・・
中用権はあくまでも事業設備の保護の観点から認められた権利に過ぎませんからね。
また、実用新案権が特許権と抵触する場合にも中用権は認められません。
なお、今回はチーたんの特許権は、特許法29条1項2号違反で無効にされましたが、もし無効理由が39条違反(ダブルパテント)
だった場合、中用権が認められるかについては学説上争いがあります。
特許法80条1項1号の文言に従えば、ダブルパテントの場合の後願者にも中用権が認められるように読めます。
しかし、これを否定する見解も有力です。
これに関しては法改正で対処されることになるかもしれませんね。