通常実施権の一種である中用権。
重要性は低い条文ですが、弁理士試験一次試験には重要なので必ず学習してください。
また、商標法の中用権(商標法33条)とも比べてみてください。

チーたん
うわ~ん( ;∀;) 特許が無効にされちゃったよぅ。
しかもそれだけならともかく、別の人が同じ発明について特許権を取得しちゃった。
せっかく特許製品をバンバン売っていこうと思っていたところだったのに・・・
ふっくん
どういうことですか?
チーたん
ぼくが特許出願した発明は公然実施をされた発明(特許法29条1項2号)として無効にされてしまった(特許法123条1項2号)のだけど、後願者はその公然実施をした本人で、新規性喪失の例外(特許法30条)の規定の適用を受けていたから特許権を得ることが出来たんだ。
ふっくん
先使用権(特許法79条)はありませんか?
チーたん
無理だよ。その別の人の特許出願時には実施していなかったもん。
ああ・・・。せっかく工場に投資したのに・・・。
ふっくん
諦めるのはまだ早いですよ。
中用権がみとめられるかもしれませんからね。
チーたん
中用権?聞いたことないな。何それ?
ふっくん
ある発明について特許権を取得して、その発明の実施の事業又はその準備をしていた場合において、当該特許権が無効審決により遡及消滅してしまった場合(特許法123条、特許法125条)、もしその発明と同一の発明について他人が特許権を有するような事態が生じると、原特許権者、つまりこの場合はチーたんですが、はその特許権者の許諾が無い限り当該発明を実施できなくなってしまいます。

すると、せっかく工場に資本を投下していたのに事業自体を中止せざるをえないことになりますよね。

それでは国家経済的に無駄が生じてしまいます。
もともと特許庁審査官の過誤のせいで無効理由があるにもかかわらず事業設備に投資をしてしまったのに・・・。

そこで、特許無効審判の請求登録(職権による予告登録)の前に、特許に無効理由があることを知らないで、日本国内において発明の実施である事業またはその準備をしている場合、その者は、当該実施または準備をしている発明および事業の目的の範囲内において通常実施権を取得することができるとされています(特許法80条)。
これを中用権と呼びます。

無効審判の請求登録前の実施による通常実施権

第八十条  次の各号のいずれかに該当する者であつて、特許無効審判の請求の登録前に、特許が第百二十三条第一項各号のいずれかに規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許を無効にした場合における特許権又はその際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。
一  同一の発明についての二以上の特許のうち、その一を無効にした場合における原特許権者
二  特許を無効にして同一の発明について正当権利者に特許をした場合における原特許権者
三  前二号に掲げる場合において、特許無効審判の請求の登録の際現にその無効にした特許に係る特許権についての専用実施権又はその特許権若しくは専用実施権についての通常実施権を有する者
2  当該特許権者又は専用実施権者は、前項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。

チーたん
ぼくは、特許に無効理由があることなんて知らなかったし、特許無効審判の請求登録の前に実施事業の準備を開始していたよ!
具体的には必要な機械を購入したんだ。
ふっくん
それなら、当該実施または準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において通常実施権を取得できますよ。
単に資金の借り入れや宣伝用パンフレットを作っただけでは駄目ですけどね。
チーたん
やったー!
・・・でも、正当な特許権者にはちょっと悪い気がするな・・・
ふっくん
大丈夫ですよ。先使用権と違って、中用権者は特許権者(または専用実施権者)に相当の対価の支払いをしなければいけませんから(特許法80条2項)。
チーたん
先使用権とは違って、「公平の観念」が無いから?
ふっくん
その通りです。
中用権はあくまでも事業設備の保護の観点から認められた権利に過ぎませんからね。
チーたん
なるほどね。
ふっくん
ちなみに、チーたんの特許権に別の無効理由が存在した場合において、もしチーたんがその無効理由について知っていた場合、中用権は認められません。

また、実用新案権が特許権と抵触する場合にも中用権は認められません。

チーたん
無審査で登録される実用新案権に中用権を認めるなんてフェアじゃないもんね。
ふっくん
その通りです。

なお、今回はチーたんの特許権は、特許法29条1項2号違反で無効にされましたが、もし無効理由が39条違反(ダブルパテント)
だった場合、中用権が認められるかについては学説上争いがあります。

特許法80条1項1号の文言に従えば、ダブルパテントの場合の後願者にも中用権が認められるように読めます。

しかし、これを否定する見解も有力です。

これに関しては法改正で対処されることになるかもしれませんね。