まだ特許出願中で特許権の設定登録を受けていない発明について実施をしたい場合に、特許法的に安全にライセンスを受けられる方法はないのでしょうか。
以前はそのような規定はなかったので、特許出願中の発明を実施する者の権利は不安定なものでした。
この発明を使わせて欲しいんだけど、まだ特許出願中なんだ。特許権じゃないと通常実施権(特許法78条)の許諾はできないんだよね?
でも、特許権が設定登録(特許法66条)されるのはまだ何ヶ月も先だと思う。
ぼくが今すぐベンチャー企業にこの発明を使わせて欲しい場合は、どうしたらいいの?
ベンチャー企業ってすぐ潰れそうでしょ。
でも、あったとしても登録はしたくないな・・・。
だって、登録したら競合会社にうちがどんな特許を使ってどんな製品を作ろうとしているかばれちゃうよ。
ただ、まだ特許権が発生していないので仮の通常実施権と呼ばれています。
仮通常実施権
第34条の3 特許を受ける権利を有する者は、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、その特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、他人に仮通常実施権を許諾することができる。
2 前項の規定による仮通常実施権に係る特許出願について特許権の設定の登録があつたときは、当該仮通常実施権を有する者に対し、その特許権について、当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、通常実施権が許諾されたものとみなす。
3 前条第2項の規定により、同条第4項の規定による仮通常実施権に係る仮専用実施権について専用実施権が設定されたものとみなされたときは、当該仮通常実施権を有する者に対し、その専用実施権について、当該仮通常実施権の設定行為で定めた範囲内において、通常実施権が許諾されたものとみなす。
4 仮通常実施権は、その特許出願に係る発明の実施の事業とともにする場合、特許を受ける権利を有する者(仮専用実施権に基づいて取得すべき専用実施権についての仮通常実施権にあつては、特許を受ける権利を有する者及び仮専用実施権者)の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
特許出願中の請求項に記載されていなくて、実施例として記載されているだけの発明についても仮通常実施権の許諾を受けられるのかな?
補正(特許法17条の2)により請求項に含めることができる範囲ですから(特許法34条の3第1項)
仮専用実施権
第34条の2 特許を受ける権利を有する者は、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、その特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、仮専用実施権を設定することができる。
2 仮専用実施権に係る特許出願について特許権の設定の登録があつたときは、その特許権について、当該仮専用実施権の設定行為で定めた範囲内において、専用実施権が設定されたものとみなす。
3 仮専用実施権は、その特許出願に係る発明の実施の事業とともにする場合、特許を受ける権利を有する者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
4 仮専用実施権者は、特許を受ける権利を有する者の承諾を得た場合に限り、その仮専用実施権に基づいて取得すべき専用実施権について、他人に仮通常実施権を許諾することができる。
仮通常実施権は、特許を受ける権利(特許法33条)を有する人、つまり特許出願人、またはこの仮専用実施権者から許諾を受けることができます(特許法34条の2第4項)。仮専用実施権者が許諾する場合は、他人に仮通常実施権を許諾する前に特許を受ける権利を有する者から承諾を得ることが条件ですが。
仮専用実施権登録の効果
第34条の4 仮専用実施権の設定、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、変更、消滅(混同又は第34条の2第6項の規定によるものを除く。)又は処分の制限は、登録しなければ、その効力を生じない。
2 前項の相続その他の一般承継の場合は、遅滞なく、その旨を特許庁長官に届け出なければならない。
仮通常実施権の対抗力
第34条の5 仮通常実施権は、その許諾後に当該仮通常実施権に係る特許を受ける権利若しくは仮専用実施権又は当該仮通常実施権に係る特許を受ける権利に関する仮専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。
ベンチャー企業が特許権を他人に売却してしまったとしても、チーたんはその他人から差し止め請求(特許法100条)を受けても当然に対抗できますよ(特許法99条)
特許出願について拒絶すべき旨の査定(特許法49条)が確定する等して、特許にならなかった場合は、仮通常実施権は消滅します。
しかし、仮とはいえ、実施権の許諾を受けているのですから、補償金の支払は必要ありません(特許法65条3項)
お金がなくて審査請求に二の足を踏んでいるような個人発明家でも、特許出願中の権利に基づいて企業に実施権を設定できるもんね。
ただ、気を付けたいのが、実用新案については仮通常(専用)実施権の登録という制度はありません。
実用新案には特許法に規定されているような出願審査請求というものがありませんからね。
また、意匠、商標についても出願段階における仮実施権の登録という制度はありません。
ただ、特許出願により範囲が決まっていないので、仮専用(通常)実施権としての制度上の保護を受けることはできないだけです。
僕は、今回は他人からライセンスを受けるけど、今度はライセンスを許諾してみたいな
ぜひ積極的に活用してくださいね。
ちなみに、仮専用実施権者が、その仮専用実施権に基づいて取得すべき専用実施権について他人に仮通常実施権を許諾した場合、その仮専用実施権が消滅したら、当該仮通常実施権は必ず消滅するので覚えておいてくださいね