2015年6月にプロダクトバイプロセスクレームの最高裁判決が出ています。最高裁の判決なので重要なものではありますが、学習する場合には知財高裁の考え方も知っておくべきです。
また、大前提として特許法条文を知っておかなければいけないので、初学者は、今回の記事を読む前に特許法の基礎や技術的範囲などについての記事を読んでからここに戻ってきてください。
基本を疎かにして最高裁判決を学んでも、足し算引き算を知らない子供が掛け算を学ぶようなもので有害ですらあります。
チーたん
ねーねー、前に発明の定義(特許法2条)について勉強したときに、「発明には3種類ある。物の発明と方法の発明と製造方法の発明である」ってふっくんに教わったけど、特許発明の技術的範囲(特許法70条)って、請求項の記載で決まるんだよね?
じゃあ、請求項を「ロウ付けまたはホットプレスにより一体に接合した層」みたいな書き方をしたらどうなるの?層という物の発明として認識されるの?それとも製造方法の発明になっちゃうの?
ふっくん
物の発明として認識されます
チーたん
じゃあ、特許された特許権を使って権利行使をするときに、違う作り方をしていても層として同じものを作っている人に権利行使できるの?それともその製造方法で創った層にしか権利は及ばないの?
ふっくん
それは、プロダクトバイプロセスクレームの「物同一説」と「製法限定説」の問題ですね。
チーたん
プロダクトバイプロセスクレーム??
ふっくん
文字通り、プロダクト(物)をプロセス(過程)でクレームしたものです。
あまり望ましい書き方とは言えません。私はお勧めしませんね。
あまり望ましい書き方とは言えません。私はお勧めしませんね。
チーたん
なんで?
ふっくん
仮にそのような発明が審査されるとき、特許庁の審査官はどのように審査すると思いますか?
チーたん
んーっと、プロセスの発明として審査するよね。
あ、でもそもそも物の発明なんだから広く考えないと・・・
ということは、物の発明として出願したときと同じように審査が厳しくなっちゃう?
あ、でもそもそも物の発明なんだから広く考えないと・・・
ということは、物の発明として出願したときと同じように審査が厳しくなっちゃう?
ふっくん
その通りです。
しかも、その特許が侵害されたときに、権利行使をした場合、裁判所ではその特許の効力はどのように判断されると思いますか?
しかも、その特許が侵害されたときに、権利行使をした場合、裁判所ではその特許の効力はどのように判断されると思いますか?
チーたん
製造方法は違っても物の発明として一緒なら権利行使できるんじゃない?
ふっくん
そうです。それは最高裁の採っている考え方です。
でも、最高裁以前、知財高裁では「物の特定を直接的にその構造または特性によることが出願時において不可能または困難であるという事情」がある場合に限られるとされていました。
特別な事情もないのにわざわざプロセスに限定して出願されたものは、
「その製造方法に限定して権利を望んでいる物」と考えることができるので「製法限定」した部分にしか権利がないとしていました。
でも、最高裁以前、知財高裁では「物の特定を直接的にその構造または特性によることが出願時において不可能または困難であるという事情」がある場合に限られるとされていました。
特別な事情もないのにわざわざプロセスに限定して出願されたものは、
「その製造方法に限定して権利を望んでいる物」と考えることができるので「製法限定」した部分にしか権利がないとしていました。
チーたん
・・・あ、そうだよね。わざわざ製造方法に限定して書いているんだから、権利行使時にはその製造方法に限定して解釈すべきと考えてもおかしくないよね。
そう解釈されるのが嫌ならプロセスなんて書くべきじゃないんだから。
プロセスに特許が欲しいなら別の請求項に「製造方法の発明」を書けばいいんだし。
そう解釈されるのが嫌ならプロセスなんて書くべきじゃないんだから。
プロセスに特許が欲しいなら別の請求項に「製造方法の発明」を書けばいいんだし。
ふっくん
そうです。
ということは、「審査時には厳しく審査され、権利行使時には弱い力しか持たない」。これがプロダクトバイプロセスクレームの宿命でした。
ということは、「審査時には厳しく審査され、権利行使時には弱い力しか持たない」。これがプロダクトバイプロセスクレームの宿命でした。
チーたん
でもさ、製造方法的記載でしかクレームを表現できない場合もあるんじゃないの?
ふっくん
そうです。本来非常に例外的な場合にのみプロダクトバイプロセスクレームは認められるものです。
しかし、明確な理由なく製造方法的記載をしているクレームが散見されます。甘く審査してもらえると考えているのかもしれませんし、単純に適切な請求項の書き方を知らないだけかもしれません。
しかし、明確な理由なく製造方法的記載をしているクレームが散見されます。甘く審査してもらえると考えているのかもしれませんし、単純に適切な請求項の書き方を知らないだけかもしれません。
チーたん
さっき最高裁の話に触れたよね?
最高裁ではどんな風に言っているの?
最高裁ではどんな風に言っているの?
ふっくん
先ほど私が話したダブルスタンダード、つまり特許庁と裁判所での二重の基準の話は知財高裁までの話です。
最高裁ではもっと明確にプロダクトバイプロセスクレームはやめてくれ!といっています。
最高裁ではもっと明確にプロダクトバイプロセスクレームはやめてくれ!といっています。
チーたん
裁判所はそんなこといわないでしょ(笑)
ふっくん
私の意訳です(-▽-)
先ほど述べたように、知財高裁では、プロダクトバイプロセスクレームは「物として同一」か「製法限定」かについては個別具体的に判断されていたのですが、最高裁では「物として同一」なら権利が及ぶことになりました。
先ほど述べたように、知財高裁では、プロダクトバイプロセスクレームは「物として同一」か「製法限定」かについては個別具体的に判断されていたのですが、最高裁では「物として同一」なら権利が及ぶことになりました。
チーたん
じゃあ特許権者に有利になったんだね!
ふっくん
これだけならそう思ってしまいますが有利にはなっていません。
なぜなら、プロダクトバイプロセスクレームで書かれたクレームは明瞭でないことから特許法36条6項2号に規定する「明確性」の要件を満たしていないと判断され、そもそも特許されない可能性が高くなったからです。
知財高裁の考えでは、プロダクトバイプロセスクレームに対しては審査時に厳しく、権利行使時には権利を弱く解釈することによってバランスを取ればよいとなっていたのですが、最高裁判決がでたことによって、そもそもプロダクトバイプロセスクレームなんて特許出願しても特許を取れないから意味がないことになりました。
出願されても拒絶するぜ。仮に特許されても無効理由になるぜ。だから最初から審査官を煩わせないでくれ。ということですね。
なぜなら、プロダクトバイプロセスクレームで書かれたクレームは明瞭でないことから特許法36条6項2号に規定する「明確性」の要件を満たしていないと判断され、そもそも特許されない可能性が高くなったからです。
知財高裁の考えでは、プロダクトバイプロセスクレームに対しては審査時に厳しく、権利行使時には権利を弱く解釈することによってバランスを取ればよいとなっていたのですが、最高裁判決がでたことによって、そもそもプロダクトバイプロセスクレームなんて特許出願しても特許を取れないから意味がないことになりました。
出願されても拒絶するぜ。仮に特許されても無効理由になるぜ。だから最初から審査官を煩わせないでくれ。ということですね。
チーたん
裁判官はそんな話し方しないから(笑)
ふっくん
まあ、とにかく極力プロダクトバイプロセスクレームは避けるべきでしょう。
プロダクトバイプロセスクレームは明確性要件違反で拒絶される可能性が高く、また、プロセス的記載部分を削除する補正をすると、クレームの範囲を拡張することになるので、新規事項追加で同じく拒絶理由(特許法49条)となりますからね。
プロダクトバイプロセスクレームは明確性要件違反で拒絶される可能性が高く、また、プロセス的記載部分を削除する補正をすると、クレームの範囲を拡張することになるので、新規事項追加で同じく拒絶理由(特許法49条)となりますからね。
チーたん
じゃあ、どんな場合でもプロダクトバイプロセスクレームで特許出願すべきじゃないの?
ふっくん
プロダクトバイプロセスクレームの記載が物のどのような構造または特性を表しているのか十分に明確であれば、特許される可能性はあるといえます。
ただ、プロダクトバイプロセスクレームでしか表現できないクレームを書く必要がある分野はかなり限られますから通常は「プロダクトバイプロセスクレームで出願しない。製造方法を書きたいなら製造方法の発明としてクレームを記載する」と考えておくべきでしょう。
ただ、プロダクトバイプロセスクレームでしか表現できないクレームを書く必要がある分野はかなり限られますから通常は「プロダクトバイプロセスクレームで出願しない。製造方法を書きたいなら製造方法の発明としてクレームを記載する」と考えておくべきでしょう。
チーたん
なるほどね。ちょっと難しかったから、知財担当者のぼくとしては、「プロダクトバイプロセスクレームは書かないようにする」とだけ覚えておくよ(笑)
ふっくん
それでいいですよ(笑)
でも、弁理士試験を受験するつもりなら、きちんと学習してくださいね
でも、弁理士試験を受験するつもりなら、きちんと学習してくださいね
チーたん
う~ん(^^;
ふっくん
ちなみに、最高裁判決とは別ですが、プロダクトバイプロセスクレームで記載されている発明を「物の発明」から「物を生産する方法の発明」に訂正する訂正審判が認められた例があります。
ただし、常にこの訂正が認められるわけではなく個別具体的に判断されますから注意してください。
第三者の不利益にならないように「実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するもの」にある場合は訂正は認められません
ただし、常にこの訂正が認められるわけではなく個別具体的に判断されますから注意してください。
第三者の不利益にならないように「実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するもの」にある場合は訂正は認められません