特許権侵害訴訟において原告と被告は様々な主張をします。その一つが「特許無効の抗弁」及び「訂正の再抗弁」です。
2017年7月には最高裁判決も出ています。

あいぴー
うちの会社の特許権を侵害している会社を提訴しよう思とるんや。何か注意すべきことがあったら教えてほしいんやけど。
チーたん
相手の実施している発明はうちの会社の特許発明の技術的範囲(70条)に属する?
あいぴー
大丈夫やと思うで
チーたん
思うって・・・。もし特許無効の抗弁(特許法104条の3)をされたらどうするのさ
あいぴー
特許無効の抗弁?
チーたん
侵害訴訟において、当該特許が特許無効審判等により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない(特許法104条の3)とされているんだ。だから、侵害であると言われた者は、特許に無効理由があることを抗弁として主張できるんだ。
あいぴー
そんな話どこかで聞いたことがあるわ。カルビーポテトチップス事件やったかな
チーたん
キルビーね。
「キルビー事件最高裁判決」では、特許が明らかに無効である場合に、権利者が特許権を行使することは、権利の濫用であるとして制限されるとしたんだ。それを受け平成16年特許法改正において、裁判所が、特許の有効性を当該訴訟限りにおいて判断することを可能とする特許無効の抗弁(特許法104条の3)が導入されたんだ。

あいぴー
よう知っとるな。チーたん。

チーたん
いつもふっくんに教えてもらっているから。

あいぴー
頼もしいな。チーたんみたいな知財部員がいればうちの会社も安泰や。
ところで、さっきの話やけど、もし特許無効の抗弁をされたら特許権者はどうすればエエの?
チーたん
え〜っと・・・
ふっくん
訂正の再抗弁をすればいいんですよ。
チーたん
あ、そうそう。訂正の再抗弁!
そのままでは無効理由を有していても、訂正すれば大丈夫なときに訂正するぞって抗弁するんだよね。
ふっくん
大体はあっています。正確に言うと、無効の抗弁をされた場合に訂正の再抗弁をするには、下記の要件を満たしていることが必要です。
①特許庁に対し適法な訂正審判の請求又は訂正の請求を行っていること

②当該訂正が訂正要件を充たしていること

③当該訂正によって被告が主張している無効理由が解消されること

④被告各製品が訂正後の特許発明の技術的範囲に属すること

あいぴー
この訂正の再抗弁に対して被疑侵害者(特許権者から侵害だと言われた者)はどんな主張をしてくるん?
ふっくん
上記③乃至④を充足していないことを主張してきます。再々抗弁ですね。
チーたん
ちょっと気になるんだけど、条文を見ると、特許法104条の3には、「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。」と規定されているよね。ということは、訴訟において主張すれば、訂正審判請求等を現実に行っていなくてもいいの?

ふっくん
原則として、訂正審判請求等を行っていることを要します。
訴訟において、特許権者が訂正により無効理由が解消可能であることを主張したことのみをもって、訂正の再抗弁を認めてしまうと、後に特許権者が訂正を行わない場合に問題となりますよね。これを許すと、特許権者は権利行使に際しては、訂正前の広い範囲で特許権を行使できる一方、無効の再抗弁の審理の関係について、特許請求の範囲を狭く限定して主張することを許すこととなるからです。

知財高判平26年9月17日「共焦点分光分析事件」では、「訂正の再抗弁の主張に際しては、実際に適法な訂正請求等を行っていることが訴訟上必要であり、訂正請求等が可能であるにもかかわらず、これを実施しない当事者による訂正の再抗弁の主張は、許されないものといわなければならない。」「ただし、特許権者が訂正請求等を行おうとしても、それが法律上困難である場合には、公平の観点から、その事情を個別に考察して、訂正請求等の要否を決すべきである。」「特許権者による訂正請求等が法律上困難である場合には、公平の観点から、その事情を個別に考察し、適法な訂正請求等を行っているとの要件を不要とすべき特段の事情が認められるときには、当該要件を欠く訂正の再抗弁の主張も許されるものと解すべきである。」と判示されています。


チーたん
つまり、原則としては実際に訂正請求等を行っていることが必要だけど、それが法律上困難な場合には訂正の再抗弁を認める場合もあるというわけだね。

ふっくん
そうです。ただし、注意しなければいけないことがあります。
ここで、重要な最高裁判決を示しておきましょう。 最判平29年7月10日「シートカッター事件」です。
この裁判では、別件の無効理由に係る審決に対する審決取消訴訟が係属しており、訂正が法律上出来ませんでした(126条2項)。

「特許権者が、事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず、その後に訂正審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは、訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り、特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして、特許法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されないものというべきである。」


チーたん
なんだか可哀想じゃない?訂正審判請求等が出来なかったのは法律上仕方なかったんだから

ふっくん
そう思えるかもしれませんが、抗弁自体はできるのですから、早期に抗弁しておくべきだったのです。そうしなければ紛争の解決が遅れてしまいますよ。
チーたん
まぁ、訂正の再抗弁自体はできたはずだよね。訂正の再抗弁をするためには現に訂正審判請求等をしている必要はないというのなら。
ふっくん
それに、特許法104条の4第1項3号は、特許権侵害訴訟の終局判決確定後に、特許権者等が行った訂正審決が確定した場合であっても、再審の訴えにおける主張を禁じています。

主張の制限

第百四条の四  特許権若しくは専用実施権の侵害又は第六十五条第一項若しくは第百八十四条の十第一項に規定する補償金の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、次に掲げる決定又は審決が確定したときは、当該訴訟の当事者であつた者は、当該終局判決に対する再審の訴え(当該訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴え並びに当該訴訟を本案とする仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の請求を目的とする訴えを含む。)において、当該決定又は審決が確定したことを主張することができない。
一  当該特許を取り消すべき旨の決定又は無効にすべき旨の審決
二  当該特許権の存続期間の延長登録を無効にすべき旨の審決
三  当該特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の決定又は審決であつて政令で定めるもの

チーたん
なるほど・・・。
ふっくん
この104条の4の規定は最高裁判決を受けて平成23年に新設されたんですよ。
チーたん
じゃあ、このシートカッター事件を受けて今後特許法に新たな規定が設けられるかもね。
あいぴー
とにかく、特許権者としては、無効の抗弁に対して、訂正の再抗弁が必要だと思ったら、訂正審判の請求等をすることが法律上できるかに関わらす、主張すべきやな。
チーたん
でも、訂正の再抗弁をするということは、権利範囲が狭くなることにつながるから、特許権者としては主張したくないよね。

ふっくん
そんなことを言っていつまでも訂正の再抗弁をしないでいると、シートカッター事件のようなことになってしまいますから気をつけてくださいね。

チーたん
う、気をつけます(^^;