特許権侵害訴訟において原告と被告は様々な主張をします。その一つが「特許無効の抗弁」及び「訂正の再抗弁」です。
2017年7月には最高裁判決も出ています。
「キルビー事件最高裁判決」では、特許が明らかに無効である場合に、権利者が特許権を行使することは、権利の濫用であるとして制限されるとしたんだ。それを受け平成16年特許法改正において、裁判所が、特許の有効性を当該訴訟限りにおいて判断することを可能とする特許無効の抗弁(特許法104条の3)が導入されたんだ。
ところで、さっきの話やけど、もし特許無効の抗弁をされたら特許権者はどうすればエエの?
そのままでは無効理由を有していても、訂正すれば大丈夫なときに訂正するぞって抗弁するんだよね。
①特許庁に対し適法な訂正審判の請求又は訂正の請求を行っていること
②当該訂正が訂正要件を充たしていること
③当該訂正によって被告が主張している無効理由が解消されること
④被告各製品が訂正後の特許発明の技術的範囲に属すること
訴訟において、特許権者が訂正により無効理由が解消可能であることを主張したことのみをもって、訂正の再抗弁を認めてしまうと、後に特許権者が訂正を行わない場合に問題となりますよね。これを許すと、特許権者は権利行使に際しては、訂正前の広い範囲で特許権を行使できる一方、無効の再抗弁の審理の関係について、特許請求の範囲を狭く限定して主張することを許すこととなるからです。
知財高判平26年9月17日「共焦点分光分析事件」では、「訂正の再抗弁の主張に際しては、実際に適法な訂正請求等を行っていることが訴訟上必要であり、訂正請求等が可能であるにもかかわらず、これを実施しない当事者による訂正の再抗弁の主張は、許されないものといわなければならない。」「ただし、特許権者が訂正請求等を行おうとしても、それが法律上困難である場合には、公平の観点から、その事情を個別に考察して、訂正請求等の要否を決すべきである。」「特許権者による訂正請求等が法律上困難である場合には、公平の観点から、その事情を個別に考察し、適法な訂正請求等を行っているとの要件を不要とすべき特段の事情が認められるときには、当該要件を欠く訂正の再抗弁の主張も許されるものと解すべきである。」と判示されています。
ここで、重要な最高裁判決を示しておきましょう。 最判平29年7月10日「シートカッター事件」です。
この裁判では、別件の無効理由に係る審決に対する審決取消訴訟が係属しており、訂正が法律上出来ませんでした(126条2項)。
「特許権者が、事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず、その後に訂正審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは、訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り、特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして、特許法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されないものというべきである。」
主張の制限
第百四条の四 特許権若しくは専用実施権の侵害又は第六十五条第一項若しくは第百八十四条の十第一項に規定する補償金の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、次に掲げる決定又は審決が確定したときは、当該訴訟の当事者であつた者は、当該終局判決に対する再審の訴え(当該訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴え並びに当該訴訟を本案とする仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の請求を目的とする訴えを含む。)において、当該決定又は審決が確定したことを主張することができない。
一 当該特許を取り消すべき旨の決定又は無効にすべき旨の審決
二 当該特許権の存続期間の延長登録を無効にすべき旨の審決
三 当該特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の決定又は審決であつて政令で定めるもの