特許権を得るには特許出願するだけでは不十分です。
審査制度を採用している日本では、時間もお金も手間もかかるのです。

チーたん
やっと明細書を書き上げたよ。今日中に特許出願をするよ。
いつ特許登録されるのかな。画期的な発明だから一か月で特許査定されたりして!
楽しみだな。
ふっくん
特許出願しただけではいつまでたっても特許査定を受けることはできませんよ。
チーたん
え?なんで?
ふっくん
日本の特許法は審査主義を採用しているので、審査請求をしなくてはいけないのです。
チーたん
審査請求?
ふっくん
出願された全ての特許出願が特許登録されるわけではありません。
方式審査、そして実身体審査を経て、特許要件(特許法29条等)を満たしたものだけが特許されるのです。

出願された全ての出願は方式審査に付されますが、実体審査されるのは「審査請求」がされた特許出願だけなのです。

チーたん
なんでそんなことしなくちゃいけないの?
出願したら自動で審査してくれればいいのに。
ふっくん
もしそんなことになったら、特許庁がパンクしてしまいますよ。
純粋に特許がほしくて出願されたわけではなく、「防衛」や「念のため」にされた出願もたくさんあるわけですから。
チーたん
あ、そうか。
権利化までは望まないけど、他人がその発明で特許権を得るのは阻止したいと思う人もいるもんね。
ふっくん
そうです。それに、もしかしたら特許要件を充足していて特許できるかもしれない発明について先願の地位を確保しておけば安心して発明を実施(特許法2条3項)できますよね。
チーたん
審査無しで登録されると特許庁の審査官は仕事が増えすぎて大変だね
ふっくん
そうです。特許出願人が価値を認めない出願については放置してしまってもいいですよね。

そこで、日本の特許法は、出願という行為と実体審査を切り離し、実体審査を望む場合は、出願とは別に改めて出願審査をさせるという出願審査制度を導入したのです。

チーたん
審査請求はいつどうやってするの?
ふっくん
特許出願の日から3年以内に、特許庁長官に請求書を提出して行います(特許法48条の3第1項、特許法48条の4)。

出願審査の請求

第四十八条の三  特許出願があつたときは、何人も、その日から三年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる。

ふっくん
この間、じっくりと「自分の発明は特許に値するのか」等を考えてください。
そして、審査請求料や特許料を払ってまで特許権を維持する必要がないと判断したら、その特許出願は取り下げや放置すればいいわけですし、特許がほしいと思ったら審査請求すればいいわけです。
チーたん
そだね。発明完成時には素晴らしい発明だと思っても、市場動向が変化して3年後には発明が陳腐化している可能性もあるし、それならわざわざお金を払ってまで特許化する必要ないよね。

あ、ところでさ、今は自分が特許出願人の立場で考えていたけど、逆に自分がその発明を実施しようとする人だったら権利が3年間も確定しないのは困っちゃうな。

特に特許出願って出願日から1年6月後には出願公開されるでしょ?

自分が実施する発明がその出願公開された発明と同じだったら、いつ権利行使されるかとひやひやしていなくちゃいけないのは怖いよ。

ふっくん
そんなときはチーたんが特許出願人に代わって勝手に審査請求することもできますよ。
審査請求は誰でもできます(特許法48条の3第1項)から。
チーたん
そうなんだ!
ふっくん
突然知らない人から審査請求をされてしまった特許出願人の利益を守るために、出願人以外から審査請求があった場合は、特許庁長官から出願人に通知がされます(特許法48条の5第2項)。
審査請求をした第三者であるチーたんには審査結果は通知されないんですけどね。

なお、出願審査請求は誰でもできますが、料金が高いのでむやみな請求に対する抑止力になっています。

チーたん
特許出願の日から3年以上経ってしまった特許出願はどうなるの?
ふっくん
審査請求期間を過ぎた特許出願は取り下げ擬制されます(特許法48条の3第4項)。

ただ、3年を経過した後であったとしても、期間を徒過したことについて「正当な理由」があったときは、その理由がなくなった日から2月以内で請求期間経過後1年以内であれば、出願審査の請求をすることが出来ますよ(特許法48条の3第5項乃至7項)。

チーたん
でも、もし他人の特許出願が権利化しないだろうと信じて審査請求期間経過後に発明の実施をしたとしたらその人かわいそうだよね・・・
ふっくん
その場合は実施者に無償の法定通常実施権が認められます(特許法48条の3第8項)。

詳しく説明いたしますと、先ほど述べたように、審査請求期間を過ぎた特許出願は取り下げ擬制され(特許法48条の3第4項)、その旨が特許公報に掲載されます。
そして、その特許公報の発行後、第5項による出願審査の請求があった旨を掲載した特許公報の発行前に、善意に日本国内において「当該発明の実施である事業をしている者またはその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有します。

出願審査の請求

特許法48条の3第4項  第一項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかつたときは、この特許出願は、取り下げたものとみなす。
5  前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、第一項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をすることができなかつたことについて正当な理由があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、出願審査の請求をすることができる。
6  前項の規定によりされた出願審査の請求は、第一項に規定する期間が満了する時に特許庁長官にされたものとみなす。
7  前三項の規定は、第二項に規定する期間内に出願審査の請求がなかつた場合に準用する。
8  第五項(前項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定により特許出願について出願審査の請求をした場合において、その特許出願について特許権の設定の登録があつたときは、その特許出願が第四項(前項において準用する場合を含む。)の規定により取り下げられたものとみなされた旨が掲載された特許公報の発行後その特許出願について第五項の規定による出願審査の請求があつた旨が掲載された特許公報の発行前に善意に日本国内において当該発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有する。

チーたん
あーよかった。
ふっくん
無審査で登録される実用新案も良いですが、権利行使前に技術評価書が必要ですし、やはり権利が安定して強い特許権を得たいですよね。