二次的著作物を創作するときに問題となるのが翻案権の侵害です。
今回は「翻案権」について具体的事例を見ながら理解を深めましょう。

チーたん
あいぴー、今日は真面目に仕事しているみたいだね
あいぴー
新作の小説を書いとるだけやで
チーたん
なんだ・・・。まぁ一応聞いてあげるけど、どんな話?
あいぴー
未来から来た猫型ロボットが未来の発明を駆使して小学生の男の子を助ける物語や。
チーたん
それって、ドラえもんの著作権侵害になるんじゃないの・・・?
ふっくん
場合によっては翻案権の侵害になるでしょうね。
チーたん
翻案権?
ふっくん
翻案権とは、著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利のことです(著作権法27条)。

翻訳権、翻案権等

第二十七条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

ふっくん
そして、翻案とは、「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ(類似性)、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為」です。

 

翻案の例としては、編曲する行為、小説を映画化やアニメ化・ゲーム化する行為などが挙げられます。

あいぴー
坂本龍馬が活躍する小説を書いたら、司馬遼太郎の小説の翻案に当たるんかな?
ふっくん
先程も言ったように、翻案に該当するには、「思想又は感情を創作的に表現」することが必要です。

あいぴーがしようとしているのは、坂本龍馬が主人公の既存の小説のアイデアを真似しているだけです。
ですから、翻案権の侵害とはなりません。

チーたん
基本的にアイデアが著作権で守られることは無いんだよ。
アイデアを守るのは別の法律(特許法)だから。

ちなみに小説のアイデアが特許法で守られることはないけどね。

あいぴー
じゃあ、「新たに思想又は感情を創作的に表現」せずに、「そのまま」表現した場合は翻案権の侵害になるん?
ふっくん
それでは、作品をそのままコピーしただけですから複製権の侵害(著作権法21条)になります。
チーたん
じゃあ、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできない別の著作物を創作する行為は?
ふっくん
それでは、別の創作をしたことになりますから、何の著作権の侵害にもなりませんよ。
チーたん
映画の要約は翻案権の侵害になる?
ふっくん
普通にしている分には大丈夫ですよ。

ただし、ネタバレになるほど詳細な説明をすると、要約ではなく、翻案になってしまいます。

チーたん
替え歌とかパロディは翻案になる?
ふっくん
その可能性が高いですね。なお、同一性保持権の侵害にも該当します。
あいぴー
人気ドラマの俳優を二等身のぬいぐるみにしたマスコットを販売したらあかんのかな?
ふっくん
翻案権の侵害になります。
チーたん
海外のウエブ記事を翻訳ソフトを使って機械的に翻訳したら翻訳権の侵害になる?
ふっくん
その場合は複製権の侵害でしょうね。まあ、複製権にせよ翻訳権にせよ、著作権の侵害になると覚えておけば良いです。
あいぴー
うちな、ある海外ドラマを見て感動したから、それを基に新しい小説を書こうと思っとるんやけど、言語もセリフも違うし大丈夫やな?
ふっくん
う〜ん、翻訳権や翻案権の侵害になる可能性が高いですよ。
「本質的な特徴」が何かは個別具体的に裁判所で判断しないとわかりませんが、基本的なストーリーやプロットが似ていれば、翻訳権・翻案権の侵害になります。

もし海外ドラマの内容に似た小説を書きたいのだったら、著作権者から翻訳や翻案をすることについて許諾を受けなければいけません。

なお、こうして創作された日本語の小説は「二次的著作物」(著作権法2条1項11号)と言います。
そして、二次的著作物の権利は翻訳や翻案をした人に発生します。

チーたん
許諾なく勝手に翻訳・翻案した場合でも?
ふっくん
そうです。
もちろん、勝手に翻訳・翻案したあいぴーは著作権侵害をしているのですからその点忘れないで下さいね。
でも、たとえ著作権侵害により創られた作品だったとしても、あいぴーの二次的著作物を勝手に利用した人はあいぴーの著作権の侵害になります。
チーたん
同人誌は著作権者から許諾を貰っていないからと言ってその同人誌を勝手にコピーして販売したりインターネットにアップロードしちゃいけないんだね。
ふっくん
そうです。
なお、二次的著作物の利用に関して、原著作者は二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有するとされています(著作権法28条)。

二次的著作物の利用に関する原著作者の権利

第二十八条 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

チーたん
原著作物の著作者が二次的著作物の著作者と同一の種類の権利を有している・・・ってちょっと意味がわからないのだけど、「二次的著作物を利用する場合は、二次的著作物の著作者の許諾の他に、原著作者の許諾も必要になるということなのかな?
ふっくん
そうです。
たとえば、あいぴーが勝手に翻訳した小説を出版する場合には原著作者に出版の許諾を貰わなければいけません。
チーたん
原著作者の権利って強力だね。
小説が勝手に漫画に翻案された場合、漫画の背景を勝手に複製されたら、原著作者はコピーした人を訴えることができるんでしょ。
ふっくん
原著作物の著作者はあくまでも、原著作物の創作的表現が二次的著作物に引き継がれている部分についてのみ、二次的著作物に関する権利を行使できるにすぎません。
「漫画の背景」は原著作物である小説の中に表現されていませんから、原著作者は著作権侵害だと主張することはできません。
あいぴー
ところで、うちが今書いている小説はドラえもんの翻案権の侵害になってしまうん?
ふっくん
既に説明したとおり、「既存の著作物であるドラえもんに依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ(類似性)、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これを読む者がドラえもんの表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為」がドラえもんの翻案権の侵害となるのですから、ドラえもんに依拠したりドラえもんに類似していたり、ドラえもんの表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものでない限り、翻案権の侵害とはなりませんよ。

 

こんな風に裁判で使われていた言葉を使って説明するとわかりにくいでしょうから、例示すると、たとえば、

私だったら、未来は、ほんの20年くらい未来にします。

そして、未来から来たロボットが持ち出す発明は、どれも超リアルで20年後に本当にありそうなものにします。

そして、主人公はのび太くんではなく、キテレツタイプの子供にし、最後には自分で発明をするようになります。

 

視聴者は一般の子どもたちを対象としておらず、主に発明に興味のある大人たちをメインターゲットとします。
これにより、日本のモノづくりを活性化させます。

チーたん
それはそれでふっくんには面白いだろうけど、一般受けしそうもないね・・・(^^;