意匠法には特許法や商標法にはない特有の制度が存在します。なかでも変わった制度が、この秘密意匠制度です。
できることなら、実際に販売を開始するまで秘密にしておきたいのやけど・・・
特許法の場合は、出願された特許は、例外を除き、公開されるのが原則だよね。それにより、権利者の保護と第三者の利益のバランスをとっているって習ったけど・・・
しかし、意匠は物品の美的形態に関する創作であるため、意匠が公表されると、その意匠は一見して把握され、容易に模倣盗用されてしまいます。
したがって、公開による出願人の受ける不利益は第三者の受ける利益よりもずっと大きくなってしまうのです。
また、特許法の場合は産業の発達のためにも、早期に出願された特許は公開されるべきですが、意匠の場合はデザインに過ぎないので「技術の累積進歩」という面はありません。
逆に、デザインが公開されてしまうことにより、製品を販売したときには「流行」が過ぎているという恐れの方が大きいと言えるでしょう。
先願主義の下、将来の流行に備えた意匠を確保しておく必要がありますが、秘密にできず出願した意匠の全てが公開されてしまうと意匠をストックしておくということができません。
そのため、意匠法では「秘密意匠制度」を採用し、登録から3年間を限度として意匠を秘密にすることを認めているのです(意匠法14条)
秘密意匠
第十四条 意匠登録出願人は、意匠権の設定の登録の日から三年以内の期間を指定して、その期間その意匠を秘密にすることを請求することができる。
2 前項の規定による請求をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した書面を意匠登録出願と同時に、又は第四十二条第一項の規定による第一年分の登録料の納付と同時に特許庁長官に提出しなければならない。
一 意匠登録出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二 秘密にすることを請求する期間
3 意匠登録出願人又は意匠権者は、第一項の規定により秘密にすることを請求した期間を延長し又は短縮することを請求することができる。
4 特許庁長官は、次の各号の一に該当するときは、第一項の規定により秘密にすることを請求した意匠を意匠権者以外の者に示さなければならない。
一 意匠権者の承諾を得たとき。
二 その意匠又はその意匠と同一若しくは類似の意匠に関する審査、審判、再審又は訴訟の当事者又は参加人から請求があつたとき。
三 裁判所から請求があつたとき。
四 利害関係人が意匠権者の氏名又は名称及び登録番号を記載した書面その他経済産業省令で定める書面を特許庁長官に提出して請求したとき。
そこで、改正により、秘密意匠の請求は意匠登録の登録料の納付と同時にする場合にも認められるようになりました。
それから、分割出願や変更出願、補正却下後の新出願においても、秘密意匠の請求ができますよ。
たとえば、自動車部品やパチンコ、携帯電話業界などでされることが多いですね。
いずれも、消費者がデザインを見て購入を決めることが多い物品といえます。
うちの会社では意匠登録出願をするときは全部秘密意匠請求しとこか
たとえば、差し止め請求をするときには、20条3項各号に掲げる事項を掲載した書面であって、特許庁長官の証明を受けたものを提示して警告した後でなければ、差止請求をすることはできません(37条3項)。
差止請求権
第三十七条 意匠権者又は専用実施権者は、自己の意匠権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 意匠権者又は専用実施権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(プログラム等(特許法第二条第四項 に規定するプログラム等をいう。次条において同じ。)を含む。以下同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
3 第十四条第一項の規定により秘密にすることを請求した意匠に係る意匠権者又は専用実施権者は、その意匠に関し第二十条第三項各号に掲げる事項を記載した書面であつて特許庁長官の証明を受けたものを提示して警告した後でなければ、第一項の規定による請求をすることができない。
過失の推定
第四十条 他人の意匠権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。ただし、第十四条第一項の規定により秘密にすることを請求した意匠に係る意匠権又は専用実施権の侵害については、この限りでない。
ただし、意匠戦略の一環として重視すべきことに変わりはありません。
外国でも意匠権に係る製品を販売したいと考えた場合、秘密意匠の請求をできない国で出願した場合、その国では公開されてしまうから、日本等秘密意匠の請求ができる国だけで秘密意匠請求をしていてもあんまり意味がないよね・・・
なお、ハーグ協定による意匠登録出願を利用した場合、公表を延期することにより秘密意匠と似たような効果を得ることが出来ます。
ただし、この公表の延期は、シンガポールなど、指定する国によっては30月延期できない場合があるので注意が必要です。