弁理士や特許事務等知財の仕事に関わる方々から知財キャリア相談をいただくのですが、たまに「転職しないほうがいい」人がいます。

多くの場合は「パワハラを受けている」「評価基準が不明瞭。差別されている」というように転職してしまったほうが良いパターンなのですが、転職するのは勿体ない方もいらっしゃいます。

それは、

「現在の特許事務所での年収や待遇が良く、大きな不満がない場合」です。

 

何年も一つの職場、特に他の特許事務所を経験せずにその事務所でずっと働いていると、

他の仕事もしてみたい。他の特許事務所を経験してみたい。という気持ちになることがあります。

ずっと明細書を書いているだけでは飽きますし、ごく自然な気持ちだと思います。

 

そして、転職しようと思って他の特許事務所のホームページを見ているとキラキラしているので魅力的に見えてきます。
もし自分がここで働いたら・・・と妄想してしまいます。

 

しかし、隣の芝生が青く見えているだけの可能性も高いので、転職には注意すべきです。

 

過去に実際にご相談を受けた例として、弁理士、30代後半、特許業界歴約10年以上、年収1000万円の方のケースを挙げてみたいと思います。

この方は、お勤めの特許事務所に取り立てて大きな不満はなかったのですが、特許業界に入って初めて入った事務所で10年近く働いていることから、そろそろ次のステージに移りたいと考えていらっしゃいました。
しかもネットなどで情報を見ると、弁理士歴10年の弁理士は年収が1500万円を超えていて当然と書いてある。
もっと年収の高い大規模事務所へ移らなくては。
転職エージェントに聞くとあなたの経歴ならと大手特許事務所を勧められる。

 

・・・しかし、待って下さい。

 

新しい特許事務所ではバラ色の弁理士生活が待っているとは限りません。焦って転職をすると今より状況が悪くなる可能性は絶対に考えてください。

たとえば、転職エージェントが転職をお勧めするのは、彼らに多額の仲介料が入るからであり、あなたの人生を真剣に考えてくれているからではありません。

むしろ逆です。自分たちに都合の良い事務所を勧めてきます。あなたの人生がどうなろうと知ったこっちゃないのです。

また、弁理士歴10年なら年収1500万円以上が当然ということについてもちょっと待ってください。

それは実際に知っている身近な弁理士が話していたことですか?

そうではなくてネットで高齢弁理士が過去を振り返っている話を鵜呑みにしていませんか?
昔は弁理士になれば年収2〜3000万円が当たり前でした。
そのため、現在50代以上の弁理士が過去を振り返って「最初は年収は低かったが数年経って数倍になった」という話は、
当時だから可能だったことだよね。としか言えません。

その人があなたと同じ年齢ならば説得力があります。

しかし、弁理士にとって美味しい時代に生きていた人の話は鵜呑みにしては危険です。

令和の時代に年収1千万円で残業があまりない、人間関係が良い、というのは幸せな環境です。

確かに仕事には飽きてしまったかもしれませんが、決して悪い環境ではありません。

その環境を捨てて他の特許事務所へ転職するのは勿体ないとしか言えません。

 

もちろん、そろそろ明細書を書くだけではなくて知財コンサルとか知財教育とか別のことをしたいというのなら話は別です。
(知財コンサルに限りませんが、コンサルはプレゼンが超うまくて実力の無さを隠しているというタイプの人がいるので、そういう人の下で働くと病みます。そういうモラハラ気質の人を初対面で見抜くのは難しいです。)

 

若い頃のようにガツガツ働くのではなく、管理職のようにマネジメントをしたりコンサルタント等の仕事にシフトしたいというのは理解できます。

ただ、弁理士の仕事で一番儲かるのは明細書の作成であることから、「面白くて楽な仕事」にシフトすると年収が下がる可能性は視野に入れておいた方が良いです。

また、そのような仕事はやりたいというライバルたちが多いために、ライバルを押しのけてマネジャー等になるのは中々骨が折れることです。

 

というわけで、現状への不満が報酬や待遇、人間関係ではなかった場合、趣味や副業をすることをお勧めします。

ここでいう副業とは、小銭稼ぎのためのバイトではなく、趣味に近い自分が楽しめることです。

 

あとは、家族との時間を増やしたり、社会貢献としてボランティア活動をするのもよいのではないかと思います。意外とボランティア活動は楽しくて、ハマってしまい何年も続けている人もいらっしゃいます。