男性の場合は、30歳少し手前くらいで転職を考える人が多いようです。
(女性の場合は婚約や結婚を機に転職という人が多いです)

 

私が昔弁理士試験を一緒に勉強していた友達のうち二人はそれぞれ新卒で大手メーカー知財部へ就職したのですが、その後、二人共30歳を目前にして転職しました。

 

ここでは、2人のうちの一人に焦点を当ててお話をしてみたいと思います。

 

彼は、「人からすごいと思われたい」「尊敬されたい」という気持ちを強く持っていました。

 

もちろん、大企業知財部で弁理士として働いていると、若くても「先生」と呼ばれるので気分が良いのですが、周りの人が尊敬してくれるわけではないので(周りも弁理士だから)、「もっと上へ」という気持ちを持ち続けていました。

 

そこで、彼は漠然と転職を考えました。

 

まず候補に考えたのは経営コンサルタントです。

 

なぜなら、彼は経営コンサルタントの大前研一氏のファンであり、経営コンサルタント=カッコイイという図式が彼の頭の中で出来上がっていたからです。(余談ですが、私は彼から大前研一氏の著書をたくさん押し付けられ全部読んで感想を述べさせられましたw)

 

そして、彼は自分もカッコイイ経営コンサルタントになるため、とりあえずハローワークで仕事を探してみました。

すると、コンサルタントの人が事務員を募集していたので会いに行ってみました。

 

すると、「え、君、本当にうちで働いてくれるの?」と驚かれました。

それはそうでしょう。
誰でも知っている大企業の社員が、社員のいない経営コンサルタントのマンションを訪れたのですから。

 

しかも提示している年収は現在の年収の半分以下です。

 

しかし、「将来的にパートナーになりたい。ゆくゆくは独立したい。」という希望を持っている彼には年収など関係ありませんでした。(小さな特許事務所に行く人、そしてそんな人を勧誘する所長弁理士も似たような感じです)

 

彼は数時間その経営コンサルタントと話し込み、また会いましょう!と約束して別れました。

 

その話を聞いた私は、「何やっとんねん!」と心の中でツッコミを入れました(実際に発言した言葉はマイルドです)。

彼の考えがあまりにもふわふわしすぎに見えたからです。

 

当時の彼の会話からは、頻繁に「夢・希望・自由」という抽象的な言葉が飛び出していました。

 

元々自分に自信を持ち、自分にならなんでもできるという自信があった彼。しかし就職してからは自分よりも優秀な人に出会い、自尊心が傷つけられます。

 

そこで、「さらに上へ」と考えました。
それは必ずしも悪いことではありません。

 

野心や向上心は人が更に自分の力を高める際に必要なものですから。

 

また、未経験で新しい分野に飛び込むなら30歳前がちょうどいいでしょう。

 

 

しかし、「この業界でこの仕事がしたい」という強い希望があるわけではなく、「他人からカッコイイと思われたいから」という理由で転職することは正しいとは思えません。

なぜなら、他人がカッコイイと思ってくれなかった場合、自分の存在価値を感じられなくなるからです。

 

楽しさ、やりがい、わくわく感で仕事を選ぶのは良いと思います。

 

しかし、その楽しさが仕事内容からでなく、「他者からカッコイイと思われると楽しい、他者から尊敬されるとわくわくする」ということからきているのなら、選び方を間違っているといえます。

 

他人の目を気にして主体的ではない職業選択をすると、何か行き詰ったときに、簡単に折れてしまいます。

 

それに対し、他人の目など気にせず本当に好きなことをやるのが「自由」な生き方と言えるでしょう。

 

結局、熟慮の末、彼は別の大企業知財部へ転職しました。

もちろん特許事務所や中小企業、ベンチャー企業への転職、さらには独立して特許事務所経営という選択肢もありました。

 

しかし、彼に出来ること、彼の今までの生き方、これからの生き方をじっくりと考えると、結局、まだしばらくは大企業にいた方がいいと判断したわけです。

 

ただ、現在の仕事には飽きてしまったので別の大企業へ転職したというわけです。

 

知財のような専門的なスキルが必要な仕事では、何歳になっても割りと簡単に転職できますし、転職回数が多くてもそれほど気になりませんから、これはこれで良かったと思います。

 

ただ、もし彼と同じように30歳前後で知財部から他分野へ転職したいと考えている人がいたら、知財を捨てるという選択肢も良いと思います。

 

なぜなら、既に身につけた知財の知識は絶対に役に立ちますし、やりたいことはやったほうがいいからです。

 

 

専門性を活かした方が年収は高くなりますが、若いうちにやりたいことをずっと我慢して生きて、年を取ってからやっぱりやればよかったと後悔するくらいなら、若いうちに盛大に失敗しておいたほうが良いでしょう。

 

そんなわけで、知財部を辞めたい人は、自分がどんな理由で辞めたいのか考えて、もしその理由が「他人の目」を気にしたものでないのなら、辞めてしまって良いと思います。

 

なお、知財部から他の部署への転職は難しいかどうかについてですが、これについては、「人による」としか言えないでしょう。

企業で真面目に働いてきた人なら容易に転職できるでしょうし、使えない人材と判断されたら転職できない、それだけです。
(なお、会社の未来が心配というようなことでなければ転職ではなく異動を願い出るのも良いと思います)

 

最後に、もしあなたが今回紹介した彼のような悩みをお持ちならどうぞご相談ください。
彼のような人からたくさん相談を受けてきたので何か思考のきっかけを与えられるのではないかと思います。
そして、それは転職という方法ではないかもしれません。

転職エージェントに相談すると、まず転職を勧められることになりますが、私は必ずしも転職が最適な解決策だとは考えていません。
この話の中の「彼」が私を相談相手としたように、あなたも私を相談相手としてください。
対話を通じて人生を見る目が変わることができると思います。

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