私は長年弁理士や企業知財部への転職を希望する方から相談を受けています。

そもそも「知財業界は自分に向いているのか」といった軽い気持ちでご質問くださる方もいらっしゃれば、「知財業界で働いているがもう辞めたい」という人からのご相談も受けています。
一番多いのは、「今働いている特許事務所はもう辞めたいけど(知財業界以外に行くところは無いから)良い転職先を見つけたい」という方からのご相談です。
収入が高いために知財業界には満足しているものの、人間関係で苦労して転職を考えている方が多い印象です。9割が人間関係と言えるでしょう。(ポジティブな理由で転職を考えている方には転職を思いとどまるようにお伝えしたこともあります)

特許事務所を辞めたい理由ナンバー1がパワーハラスメント(パワハラ)です。

では、特許事務所ではどのようなハラスメントがよく見られるのでしょうか。
実際にご相談を受けた例を挙げてみましょう。

 

チクチク批判をしてくる

上長がやることなすこと全てにいちいち批判をしてきます。
育てようという気持ちが皆無であり、「自分の思う通りに支配しよう」という気持ちしか見えません。

自分もかつては平だったはずですが、そのときの苦しい気持ちを思い出して若い人には優しくしようなんて気持ちは全く有さず、「自分も苦労したんだからお前も苦労しろ」と言わんばかりにいじめてきます。

そう、いじめなんです。
そして、そういういじめをする人は、批判をせずにはいられない病気の人です。

欧米ではいじめが起きたとき、いじめた側に精神的な問題があるとして精神科医がいじめっ子を診ます。
いじめっ子はいじめや批判をすることによってストレス発散をしており、感情のコントロールができない問題があると考えています。

 

でも日本は逆で、いじめられる側が悪いという考えが根強くあります。
ハラスメントを受けた側になにか落ち度があったのだろうとします。

 

ここで考えたいのが、「いじめや批判はやっている方は楽しい」という現実です。

部下批判は簡単です。そして、なんと楽しいのです。
なぜなら、批判をすると自分が上になった気がするし万能感を得られるからです。

 

批判とは反対に問題解決や共感は非常に難しいといえます。

まず、そもそも何が問題なのかということを相手の立場になって考えなければならず、多くの場合は「間違った問題設定」をしているからです。

部下批判ばかりしているだけで伸ばすことが出来ない人がトンチンカンなのはこれが原因です。
妄想で問題設定をして妄想で解決して凄いことをした気になっているわけです。

こうして、自分の支配欲やストレスから他者批判をしているということに気づかずに、いえ、気づいていたとしても自分には甘く「だってストレスたまってるし」と言い訳をし立場が下の人をいじめます。

 

こういう”精神的におこちゃま”な人の部下は不運です。
どんなにポテンシャルのある人でも、教える力を持たない人の下についたら力を発揮できません。

「もっと他に良い転職先があるのでは」と考えるのも無理はないでしょう。

 

こんなとき転職エージェントに相談すると大変なことになります。
パワハラ事務所を紹介されるからです。
信じられないかも知れませんがよくあることです。

だって、人が定着しないパワハラ事務所は転職エージェントに多額の金銭を払ってくれるお得意様なので、そんな金払いの良いパワハラ事務所に優先してあなたを紹介しようと思うのは自分の利益を最優先している転職エージェントにとっては当たり前のことなのです。
彼らも会社員でありノルマがあるので仕方ないと言えるかもしれません。多少は同情の余地もあります。
悪いのは社長の考え方でしょう。

でも、そんな不誠実なことを続けていてはいずれビジネスが破綻するのは見えています。
また従業員である転職エージェント自身にとっても辛いでしょう。
転職先で苦労することがわかっているのにお金のために人を地獄に叩き落とすような仕事です。
良心のある人だったらまともな精神状態でいられるわけがありません。

実際、転職エージェントの仕事はストレスフルで辞めてしまう人も非常に多い業界です。

 

話が逸れましたが、「パワハラ被害に遭った人が転職エージェントに相談すると再度パワハラ事務所を紹介される」というのはごく普通のことですのでお気をつけください。

有名大学卒、一流企業勤務の弁理士ですら被害に遭います。そして一度パワハラ事務所に紹介しても転職エージェントは懲りずにまた別のパワハラ事務所を紹介してきます。
私はこんな被害に立て続けに遭った弁理士さんたちに会ったことがあるので本当によくあることだと言えます。
そして、転職先を見つけるのに苦労しました。
人によっては半年近くもかかってしまいました。

パワハラ被害者は洗脳されていてまるで自分が悪いというように考えていますが、いじめはするほうが悪いです。絶対に。

 

だから、「自分に能力がないからだ。自分は知財業界に向いていない。」というふうには考えないで、「運が悪かったんだ。もし自分に落ち度があるとしたら、転職エージェントを信じてしまったことだ」と考えましょう。

 

なお、パワハラ上司は未経験者に無茶振りをしてくることが多いといえます。

20代で特許事務所に勤務していた方がいらっしゃいます。この方は特許事務所でエンジニアをしていらっしゃいました。特許事務所に入ったからには弁理士になろうと志し、勉強を始めたものの、上司のストレス発散に利用されていました。

具体的には、書類でこづかれたり怒鳴られたり、さっきまでニコニコしていたと思ったら突然怒鳴ったり・・・。
常に上司の顔色を伺うようになり心休まるときがありませんでした。
何ヶ月経っても上司の行動は改善せず、それどころかエスカレートしてきました。
仕事も教えてもらえずスキルが身につかない状況でこれ以上は耐えられないと思った彼は、特許事務所を退職しました。

転職先では知財と何の関係もない仕事をしていました。
そして転職後に弁理士試験に合格しました。

それから10年弱。
40歳を過ぎて彼はもう一度考えました。
弁理士資格を取ったものの何にも活用していない。
自分は特許事務所を辞めてしまったが技術は好きだ。
もし上司が違う人だったらまだ特許事務所にいて今頃弁理士として働いていたのでは無いだろうか。

そんな思いが渦巻いて、頭から離れなくなってきたので私に相談してきました。

お話を聞いて彼の考えをまとめてお伝えしました。
私から助言するのはほんの少しです。
一緒に話し合ってから彼はこう言いました。

「あともう少し早かったら弁理士として働けたかもしれません。でも、あまりにも遅すぎたようです。
現在の仕事に不満はありません。このまま今自分にできることをしていこうと思います。
弁理士の仕事については、誰かに”諦めろ”と言ってほしかったのかもしれません。
相談に乗ってくれてありがとうございます。」

ご自身の中で既に結論は出ていました。でも、「もしかしたら」という思いが捨てきれずご相談してくださいました。

そして、「未経験で特許業界へ転職するにはもう遅い。遅すぎるというほどではないから転職はできるけれど、今から弁理士をするほど弁理士の仕事に魅力を感じているわけではない。
もし、勧められたら転職してしまったかもしれない。
でも既に家族もいる以上未経験分野に飛び込む勇気はない。それに今の仕事に不満はない」

そんな事実を再認識し、知財業界を頭から追い出すことができました。

 

もしあなたも悩みをお持ちでしたらどうぞご相談ください。

自分一人では堂々巡りになってしまうことでも、他者へ相談することにより頭がスッキリするでしょう。