転職市場における知財人材の価値
まず、一口に知財人材といっても、企業知財部で働く知財部員から特許事務所勤務の特許事務員や特許技術者(エンジニア)まで様々な職種があります。
そこで、職種に分けて知財人材の価値を述べてみたいと思います。
1 企業知財部員
これには弁理士資格保有者も含みます。弁理士といえども企業に雇われている限りは、一従業員ですから。
①企業知財部員の転職の1回目のピークは26歳前後です。大学や大学院を卒業して初めて就職し、それから、2〜3年経った頃といえます。
この時期にいる人たちは、仕事にも慣れ、社会人としてのマナーも身につけているため、雇う側から見ると、
・新人教育をする手間がかからない
・業界色に染まりすぎていないので会社に馴染みやすい
というメリットがあります。
すなわち、これくらいの年齢の人は、「他社が新卒採用して大切に育ててきた人材を教育費をかけることなく採用できる」という面から考えると、「欲しい」人材なのです。
新卒で最初に入った会社の仕事が天職だったなんて確率は低く、最近は定年まで複数回転職をするのが通常になっています。
そのため、非常に能力の高い人やその会社の社風に合わない人などはどんどん転職しています。
もちろん、自分の価値を過信し、転職をしようと考える人もいるでしょうが、それはかなり危険です。
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②企業知財部員の転職の2回目のピークは30歳前後、社会人5年目くらいです。
この年齢の人たちは、仕事で実績を出し、主任やリーダーとして新人教育を任されることも多いでしょう。
雇う側のメリットとしては、
・外部から優秀な人間を取り入れることで既存社員の士気をあげる
・手っ取り早く将来の管理職候補を得られる
といったことがあげられます。
もちろん、優秀な人材でなければ企業としてはほしくありません。
企業は「教育費をかけることなく、即戦力となる人」がほしいのですから、20代を漠然と過ごしてきた人では転職において苦労することでしょう。
③企業知財部員の転職の3回目のピークは30代、社会人10年目超くらいです。
転職は若い人の方が有利であるため、20代の人のほうが積極的に採用されます。
しかし、30代になっても企業に欲しがられる人材はたくさんいます。
たとえば、
・管理職として即戦力になる人
・他社で実績を挙げてきた人
です。
これくらいの年齢の人の場合、会社としては「自社の社員よりも優秀な人」や「自社の社員には出来ないことができる」人でない限り雇いたくありません。
逆に言うと、超優秀な人なら、30代でも引っ張りだこなのです。
特に、日本の企業では、企業規模が大きくても知財部が小さいという会社が少なくありません。
特に、元々ベンチャーのような会社で規模が小さかったのに、急成長して大きくなった企業にそれは顕著です。
急成長中の企業なのに知財部員が数名というようなところでは、知財実務のエキスパートを切望しています。
そんなところでは、知財部での実務歴10年以上の30代の人は、両手を上げて迎えてもらえるでしょう。
優秀な人なら、有名な大企業知財部に入ることも余裕ですが、100人の中の一人になって埋もれるよりは、急成長中の会社の知財部数人の中のトップを目指すほうが面白いかもしれませんよ。
企業の所在地がちょっと悪かったりはしますが(都心から離れていることが多いです)、それさえ気にしなければぜひ転職してみてください!
2 特許事務所勤務弁理士
特許事務所勤務の弁理士は実に頻繁に転職します。
実力社会なので、実力のある人は他所から高年俸を提示され引き抜かれていきます。
ずっと一つの特許事務所にとどまっている弁理士よりは、特許事務所を渡り歩く弁理士のほうが多いでしょう。最終的に独立する弁理士もたくさんいます。
知財部員と異なり、弁理士の場合は年齢はそれほど問題となりません。
(定年もありませんし)
それよりも重要なのは実務経験年数です。
長い間特許明細書を書き続け(エンジニア時代含む)、十分な能力を持っている人ならば、40代でも50代でも転職できます。
ただし、弁理士資格を持っているだけで実務経験が無い弁理士はどこにも雇ってもらえないので、弁理士資格を取る前にまず特許事務所に就職し、特許技術者(エンジニア)として実務経験を積んでおくことが重要です。
意匠・商標弁理士については特許の弁理士に比べたら転職は困難です。しかし、実務経験者は特許弁理士と同様に重宝されますので転職は簡単です。特に中国語等語学が得意だと転職は非常に簡単です。
優良特許事務所に転職すべく欲張るべきです。
3 特許事務員
通常、事務員という仕事はいくらでも替えがきくため大企業の場合は競争が激しく、中小企業では給与は低く、転職は困難です。
しかし、特許事務員は違います。
普通の事務員よりは高度(といってもそれほど専門的な知識は必要ない)なスキルが必要であるため、特許事務員が転職するときは、結婚を機に別の特許事務所へ転職ということがよくあります。
特許事務員のスキルは特殊と言いましたが、このスキルは働きながら身につけることが出来る程度のものです。
したがって、一度どこかの特許事務所で働いた経験があるのなら、別の特許事務所でもやっていけます。
男性でもできますが、給与はそれほど高くないので、ワークライフバランスを重視したい女性にお勧めの仕事です。
(ただし、男性事務員もたくさんいます。特許技術者に向いていない人の場合特許事務に向いていることはよくあります。どちらにも向いていないこともありますが・・・)
なお、英語が得意な人は、外国事務の仕事もできます。
4 特許技術者(エンジニア)
理系の大学を卒業しているならば、特許事務所でエンジニアとして働くのが良いでしょう。
ずっと座りっぱなしで頭も使い大変な仕事ですが、収入は高めですし、やりがいのある仕事です。
実力のあるエンジニアなら、何歳でもどこでもやっていけます。
ただ、より高い年収を目指して転職するよりも、「より良い待遇(残業時間短め、資格取得補助有り)」を目指して転職するほうが良いでしょう。
というのも、エンジニアであるかぎり、転職しても大幅な年収アップは望めませんが、弁理士になれば、数千万円の年収も夢ではないからです。
(もちろん良い仕事をしなければ無理です。「高い技術理解力+論理力+語学力(+事務所によってはコミュニケーション能力)」が必須です)
したがって、弁理士試験に挑戦するために、残業の少ない特許事務所や弁理士試験受験に向けて制度を整えている特許事務所に転職することが結果的に将来の高年俸が期待されることから、一番理にかなっているでしょう。
5 特許翻訳者
機械翻訳はまだまだ人間の翻訳者にはかないませんが、一昔前に比べたら特許翻訳の料金は値下がりしています。したがって高年収をめざすためには、特許翻訳者はがむしゃらに仕事をしなくてはいけなくなりました。
しかし、フリーの特許翻訳者の場合はそうですが、特許事務所に雇われている特許翻訳者ならばそこまで過酷な状況に置かれてはいません。
若い人の場合は、結婚や出産、育児についても考えたいでしょうから、若いうちからフリーになって必死で働くよりも、ワークライフバランスを考えて、程々に仕事をして私生活を充実させるというのも悪くはないでしょう。
子供が小さいうちは雇われ特許翻訳者として働き、子供が大きくなったらフリーになるというようにライフステージに合わせて仕事の仕方を変えるのも良いでしょう。
なお、翻訳者といっても特許翻訳者は語学力があれば出来るものではないので注意が必要です。
6 特許調査員(サーチャー)
小さな事務所では弁理士がサーチャーを兼ねていることも多いといえます。
この仕事の魅力は、それほど高年収を期待できない代わりに、定年退職後もやりやすいという点です。
定年を迎えても元気でまだまだ仕事をしたいという方は、バイト感覚でサーチャーをするのも良いでしょう。
まとめ
以上見てきたように、知財業界の中でも職種によって転職時に求められているものが違います。
したがって、ご自分のポジションを考慮した上で、有利に転職を行ってください。
転職について悩みがある方はご相談に乗りますのでお問い合わせください。
知財部員や特許事務所弁理士など様々な方の転職相談に乗ってきました。
メンタル面での支えにもなれると思います。