平成18年特許法改正により、シフト補正の禁止が明文化されました(特許法17条の2第4項)。その後審査基準では単一性の要件(37条)については緩く解されるようになり、平成29年現在ではそれほど厳しくはありません。
また、単一性違反は無効理由(123条)ではありません。
しかし、特許出願をする際には知っておくべき知識です。
ついでに、他の発明についても出願できるかな?
単一性違反で拒絶されてしまいます(特許法37条、同49条4号)
というか、そもそも、どうして発明の単一性が要求されているの?
したがって、別出願ともなり得る異なる二以上の発明について、一の願書で出願出来ることとしたのです。
第三十七条 二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができる。
特許法施行規則
第二十五条の八
特許法第三十七条 の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。
2 前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。
3 第一項に規定する技術的関係については、二以上の発明が別個の請求項に記載されているか単一の請求項に択一的な形式によって記載されているかどうかにかかわらず、その有無を判断するものとする。
発明の単一性が判断される対象は?
通常は、「請求項に係る発明」間で判断されます。
どのように判断するのか審査基準に沿ってご説明しましょう。
発明の単一性は、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴(STF)を有しているかどうかで判断します。
すなわち、一の発明の一の特別な技術的特徴に対し、その他の全ての発明のそれぞれの特別な技術的特徴が同一の又は対応するものであるかどうかで判断します。同一の又は対応する特別な技術的特徴が存在しないときは、発明の単一性の要件を満たしません。
二以上の発明が同一の特別な技術的特徴を有している場合・・・って具体的にはどんな場合?
二以上の発明が同一の特別な技術的特徴を有している場合とは、
例えばこのようなものです。
請求項1 : 高分子化合物A(酸素バリアー性のよい透明物質)
請求項2 : 高分子化合物Aからなる食品包装容器
この例では、高分子化合物Aが先行技術に対する貢献をもたらすので、請求項1及び2に係る発明は同一の特別な技術的特徴を有します。
また、このようなものも二以上の発明が同一の特別な技術的特徴を有している場合と言えます。
請求項1 : 光源からの照明光を一部遮光する照明方法
請求項2 : 光源と光源からの照明光を一部遮光する遮光部を備えた照明装置
この例では、照明光を一部遮光する点が先行技術に対する貢献をもたらすので、請求項1及び2に係る発明は同一の特別な技術的特徴を有します。
なお、二以上の発明において、先行技術に対して解決した課題(本願出願時に未解決である課題に限る。)が一致又は重複している場合は、先行技術との対比において発明が有する技術上の意義が共通又は密接に関連している場合に該当し、これらの発明は対応する特別な技術的特徴を有する関係にあるといえます。
例としてはこんな感じですね。
請求項1 : 窒化ケイ素に炭化チタンを添加してなる導電性セラミックス
請求項2 : 窒化ケイ素に窒化チタンを添加してなる導電性セラミックス
請求項1、2に係る発明の特別な技術的特徴は、それぞれ、炭化チタン、窒化チタンですが、両発明が先行技術に対して解決した課題は窒化ケイ素からなるセラミックスに導電性を付与することによって放電加工を可能にすることです。したがって、両発明は、先行技術に対して解決した課題が一致又は重複しているから、先行技術との対比において発明が有する技術上の意義が共通しています。
もう一つ例を挙げておきましょう。
請求項1 : 映像信号を通す時間軸伸長器を備えた送信機
請求項2 : 受信した映像信号を通す時間軸圧縮器を備えた受信機
ここで、「発明の先行技術に対する貢献をもたらすものでないことが明らかとなった場合」とは以下のような場合です。
(i) 「特別な技術的特徴」とされたものが先行技術の中に発見された場合。
(ii) 「特別な技術的特徴」とされたものが一の先行技術に対する周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではない場合。
(iii) 「特別な技術的特徴」とされたものが一の先行技術に対する単なる設計変更であった場合。
さて、審査対象は「特別な技術的特徴に基づいて審査対象とした発明」とまとめて審査を行うことが効率的である発明については、審査対象に加えます。
まとめて審査を行うことが効率的であるかどうかは、明細書等の記載、出願時の技術常識及び先行技術調査の観点などを総合的に考慮して判断されます。
例えば、特許請求の範囲の最初に記載された発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの請求項に係る発明や特別な技術的特徴に基づいて審査対象とした発明について審査を行った結果、実質的に追加的な先行技術調査や判断を必要とすることなく審査を行うことが可能である発明は 、特別な技術的特徴に基づいて審査対象とした発明とまとめて審査を行うことが効率的である発明として、審査対象に加えます。
(i) 特別な技術的特徴に基づいて審査対象とした発明と表現上の差異があるだけの他の発明。
(ii) 特別な技術的特徴に基づいて審査対象とした発明に対し、周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等をした他の発明であって、新たな効果を奏するものではないもの。
(iii) 特別な技術的特徴に基づいて審査対象とした発明を審査した結果、その発明に新規性又は進歩性が無いことが判明した場合において、その発明を包含する広い概念の他の発明。
(iv) 特別な技術的特徴に基づいて審査対象とした発明を審査した結果、ある発明特定事項を有する点に新規性及び進歩性があることが判明した場合において、その発明特定事項を含む他の発明。
(v) 特別な技術的特徴に基づいて審査対象とした発明との差異が「技術の具体的適用に伴う設計変更」又は「数値範囲の最適化又は好適化」である他の発明であって、当該差異が引用発明と比較した有利な効果を奏するものでもないことを容易に判断できるもの。
[請求項1]新規物質A(発明イ)
[請求項2]新規物質Aを含有する殺虫剤(発明ロ)
[請求項3]新規物質Aを含有する除草剤(発明ハ)
[実施例1]新規物質Aを5~10パーセント含有する殺虫剤(発明二)
[実施例2]新規物質Aに物質Bを添加した除草剤(発明ホ)
この事例において、発明ロ及び発明ハは発明イの用途発明です。これらの発明は、2以上の複数の発明であり、経済産業省令で定める技術的関係を有し(特許法施行規則25条の8)、発明の単一性の要件を満たしています(37条)。
ここで発明ロは特許出願前に刊行物公知になっていたので新規性が欠如している旨の拒絶理由通知が来たとします。
ということは、発明ロは刊行物公知(29条1項3号)になっていますから、発明ロに新規性がなければ、物質aにかかる発明イも新規性がないことになります。
請求項3については先行技術調査は行われていません。
これは、請求項3が「特別な技術的特徴に基づく審査対象に該当せず、また、特別な技術的特徴に基づいて審査対象とした発明(請求項1と2)とまとめて審査をおこなうことが効率的な発明に該当しないからです。
発明イ及び発明ロは新規性がないため、「先行技術との対比において発明が有する技術上の意義が存在せず先行技術に対する貢献をもたらす特別な技術的特徴」を有しません。
発明ハは、発明ロの発明特定事項をすべて含む同一カテゴリの請求項ではないので、特別な技術的特徴に基づく審査対象に該当しません。
また、発明ハは先行技術調査が行われていないため、特別な技術的特徴に基づく審査対象とした発明イ及び発明ロとまとめて審査を行うことが「効率的」である発明にも該当しません。
したがって、請求項3に対しては、37条違反の拒絶理由通知がされます。
もし発明イに新規性はあるけど進歩性がない旨の拒絶理由が通知されたらどうなるの?
この方が対応が簡単ですね。
でも、発明イに新規性があれば、「発明の特別な技術的特徴」を有するわけだから、シフト補正にはならないわけだね
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正
17条の2第4項 前項に規定するもののほか、第一項各号に掲げる場合において特許請求の範囲について補正をするときは、その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と、その補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明とが、第三十七条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものとなるようにしなければならない。
今は緩いと言えますよ。
何度も明細書を書いて経験を積むよ。