会社で従業員がプレゼンの資料を作る、飲食店で従業員がメニューを書くというように、従業員が著作物を創作することはよくあることです。
では、どのような場合に従業員がした著作物は従業員個人のものとなり、どのような場合に会社のものとなるのでしょうか。

チーたん
見てみて。今朝、家の近くの野良猫を激写したんだ。可愛いでしょ
あいぴー
エエな。その写真。会社のブログに載せて〜な
チーたん
えー。そんなのやだよ。ぼくのブログに載せるつもりだよ
あいぴー
会社の従業員が写真を撮った場合、その著作者は従業員自身じゃなくて会社になるって聞いたで
チーたん
本当?そんなの理不尽だよ!
ふっくん
一部本当ですよ。
職務著作の要件を満たした場合、会社の従業員が創作した著作物の著作者は会社になります。
チーたん
職務著作?
ふっくん
通常、著作物の著作者となるのは、その創作活動を行った人ですよね。
しかし、以下の要件を全て満たす場合には、法人等の組織が著作者となります。
これを、職務著作(著作権法15条)といいます。

職務上作成する著作物の著作者

第十五条 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

職務著作の要件
 ① 法人等の発意に基づき創作された著作物であること
 ② その法人等の業務に従事する者が創作した著作物であること
 ③ その法人等の職務上創作した著作物であること
 ④ その法人等の著作名義で公表する著作物であること
 ⑤ その法人等内部の契約や就業規則等に別段の規定がないこと 

あいぴー
「法人」って会社のことやったっけ?
ふっくん
会社に限りませんよ。私立学校も法人ですし。

なお、著作権法上の「法人」には、法人格を有するものの他に、法人格を有しない社団又 は財団で 代表者や管理人の定めのあるものを含みます。(著作権法第2条6項)

チーたん
①「法人等の発意に基づき創作された」ってどういうこと?
ふっくん
法人等によって、著作物を創作するという意思が示される必要があるということです。
例えば、使用者であるあいぴーが従業員であるチーたんに「会社のブログに載せる写真を撮っといて」というように「著作物創作の業務命令」をした場合や「会社が企画立案をした場合」がこれにあたります。
チーたん
会社から従業員に対する具体的な指示や命令がないと駄目なの?
会社から指示されていないのにぼくがプレゼンの資料を作ったら?
ふっくん
法人等と従事する者との間に雇用関係がある場合には具体的な指示は無くても良いでしょう。その著作物の創作が当然に予定されますから。
といっても勤務時間外に趣味で撮った写真まで「法人等の発意に基づき創作された」とはいえないでしょう。
チーたん
著作物の作成についての意思決定が使用者の判断によるものであれば足りるということだね。
ふっくん
「使用者の意図に反しない程度であればよい」という考えもあれば、使用者の発意をもっと厳しく見る考え方もあります。
したがって、訴訟になったときの場合のことを考え、日頃からメールや文書は残しておくことにしたほうが良いでしょう。
「言った」「言われていない」の争いになった場合、その文書が決定的な証拠になりますからね。
チーたん
今回の猫の写真なら会社が著作者にならないことは明らかだとしても、ぼくが勤務時間外に自宅で仕事に使える著作物を創作した場合なんか職務著作になるのかどうか微妙なケースもあるしね
あいぴー
サービス残業で著作物を創作した場合、その著作物は会社のものや
チーたん
著作権法15条の要件さえ満たしていればそういうことになるのか・・・
ふっくん
さて、次は要件② 「その法人等の業務に従事する者が創作した著作物であること」です。
「業務に従事する者」とは、使用者と作成者との間に雇用関係があること、または、実質的にみて、法人等の内部において従業者として従事していると認められる場合があることをいいます。
チーたん
じゃあ、「法人等の業務に従事する者」は、法人等と雇用契約を結んでいる者だけでなく、派遣社員みたいに、法人等の指揮監督下で業務を行う者も含むの?
ふっくん
はい。派遣労働者については、派遣社員が派遣先の会社から指揮命令を受ける点を考慮し、「法人等の業務に従事する者」に該当すると考えられます。

チーたん
フリーのカメラマンは?

ふっくん
雇用契約でない請負契約や委任契約等の場合でも、法人等の指揮監督下で創作業務が行われる場合、その業務を行う者も「法人等の業務に従事する者」にあたる可能性があります。
しかし、通常は雇用関係のない外部の者が請負契約により著作物を作成した場合には、職務著作は適用されない可能性が高いといえます。

チーたん
じゃあ、フリーのカメラマンやフリーのライターに仕事を依頼するときには、著作権を会社に移転する旨の契約をしておかないとね
ふっくん
そうですね。訴訟になるのを防ぐためにも契約書はきちんと書いておきましょう。
ふっくん
なお、著作物は、③「その法人等の職務上創作した著作物であること」が必要です。
つまり、従業員等が「独自に」創作した著作物については職務著作にはなりません。
チーたん
たとえば、ぼくが今朝撮った猫の写真は「職務上創作した著作物」には当たらないよね
ふっくん
はい。チーたんが撮った猫の写真はチーたんが独自に創作した著作物です。チーたんの会社での仕事は「研究開発及び知的財産業務」であり、猫の写真は職務とは関係ありませんからね。
あいぴー
経営者が猫好きだから職務に関係すんねん
チーたん
・・・転職しようかな・・・
ふっくん
さあ、ブラックなあいぴー社長のことは放っておいて次は要件④「その法人等の著作名義で公表する著作物であること」です。
法人等が著作者となるためには、法人等の名称を著作者として表示することが必要だということです。
例えば、「この作品の著作権は、○○株式会社に帰属します」という表示を行うことが必要です。
チーたん
従業員であるぼくの名前を著作者として表示した場合、公表する著作物の著作者はぼくであって、会社は著作者とはならないの?
ふっくん
他の要件との兼ね合いもありますが、ならないことが多いでしょう。
なお、法人等の著作の名義で実際に公表したものにかぎらず、公表することを「予定している」著作物も該当します。そのため、法文では「公表したもの」ではなく、「公表するもの」と規定されています。
チーたん
法人が自己の名義で公表したとしても、創作の時点で従業員等が自分が著作者だと信じていたのであれば、職務著作とはならない可能性があるということだね。
ふっくん
そうです。たとえば、大学教授たちが論文を書いて、その論文を一冊の本にまとめて奥付に「著作者 ◯◯出版株式会社」と書いたとしても、実質的には各論文の著作権はそれぞれの大学教授に帰属しているものと解します。
そして、◯◯出版株式会社は編集著作物の著作権者であるといえるでしょう。
チーたん
プログラムの場合は例外があるらしいけど・・・

ふっくん
はい。
プログラムの著作物に関しては例外があり(法15条2項)、公表に関する要件がありません。それは、プログラムの著作物の場合、公表を前提としないで開発されるものも少なくないため、こうした事情を考慮したためです。

チーたん
なるほどね。

ふっくん
さて、最後は要件⑤「その法人等内部の契約や就業規則等に別段の規定がないこと」です。

これについては特に説明はいらないでしょう。

チーたん
職務発明(特許法35条)の場合と違うね!
ふっくん
そうですね。発明者や知財部の方は、ここについて間違えないように気をつけてくださいね。

職務発明の場合は、特許を受ける権利は原始的に発明者に帰属していましたが、職務著作の場合は、「原則として法人が著作者」になりますからね。

チーたん
ということは、著作者人格権も法人が持つっていうこと?
ふっくん
そうです。
チーたん
じゃあ、たとえば従業員が資料を制作して、その後会社が従業員の許諾を得ずに勝手に意に沿わない文章に改変してしまってもその著作物を創作した従業員は同一性保持権の侵害だと主張できないの?
ふっくん
法文上はそういうことになりますね・・・。ただ、ココらへんは法人による著作物の利用に制限をかける学説が有力です。

チーたん
職務著作って訴訟になっているケースも随分あるみたいだね

あいぴー
うちには関係ない話や

チーたん
経営者はこいういうこと知っておかないと後でトラブルになるからね!
あいぴー
うちの会社にはふっくんがおるからうちは勉強しなくてエエもんね〜
チーたん
やっぱり転職しよ・・・