審決等取消訴訟とは、文字通り、特許庁が行った行政処分である審決等に不服のある者が審決等の取り消しを求めて裁判所に提起するものです。
審決「等」とされているのは、審決だけでなく、取消決定や請求書の却下の決定についても取り消しを求めることができるからです。

 

チーたん
特許権が無効審決のせいで消滅しちゃったよ(特許法125条)。納得できない!どうにかできないかな?
ふっくん
審決等取消訴訟を提起するという方法がありますよ
チーたん
それはどんなもの?
ふっくん
特許庁が行った行政処分である審決等に不服のある者が審決等の取り消しを求めて裁判所に提起するものです。
審決(本案に入らず審判請求・再審請求を不適当として却下した審決(135条・174条)を含む)だけでなく、取消決定、審決に対する訴え、それから異議申立書・審判・再審の請求書の却下の決定*、訂正の請求書の却下の決定に対しても不服を申し立てることができます(特許法178条1項)。

※特許異議申立書又は審判若しくは再審の請求書に方式違反がある場合に、審判長が、相当の期間を指定して補正を命じたのに補正がされなかったときに、特許異議申立書又は請求書を却下する決定のこと(133条2項・120条の6第1項・174条2項)。

チーたん
そんな制度があるんだね!
ふっくん
日本では三権分立の原則により、行政庁である特許庁は終審としての裁判を行うことができません。したがって、すべての法律上の争訟は、最終的には裁判所の判断を受けることになります(憲法76条2項)。

既に述べた通り、審決等は行政処分であるため、これに対する訴えは行政事件訴訟法の適用を受けるのが原則です。

しかし、特許法上の事件は最先端の技術を扱うものですから技術的・専門的であり通常の訴訟のようには判断しにくいものです。
また、審判手続は準司法的手続に則って厳格・公正に行われるので行政事件訴訟法の規定をそのまま適用することが適切であるとは限りません。

そこで法は審決等に対する不服申立については行政事件訴訟法の特則として審決等取消訴訟を規定しているのです。

チーたん
もうちょっと具体的に教えてよ。
誰でも審決等取消訴訟を提起できるの?
ふっくん
いいえ。原告になれるのは当事者と参加人、それから参加を申請してその申請を拒否された者です(特許法178条2項)。
行政事件訴訟法の解釈としては、行政処分によって権利を侵害された者であれば、行政処分の直接の当事者でなくても原告適格があります。一般の行政処分ならば、法律上の利害関係がある第三者にまで原告適格を拡げても別に問題はありませんが、特許権のように対世的な効力を持つ権利にかかる訴訟においては利害関係者の範囲は広くなりすぎ、全ての者に原告適格を認めると裁判が渋滞してしまいます。

しかし、だからといって当事者だけに訴訟の提起を許すことは、何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われないという憲法32条に反することになります。
そこで、参加人や参加を申請してその申請を拒否された者にも原告適格を広げたというわけです。
なお、権利の承継があった場合には、承継人が適格者の地位を承継する者と解すべきでしょう。

チーたん
特許権又は特許を受ける権利が共有の場合には、どうしたらいいの?
ふっくん
権利が共有にかかる場合に、審決等取消訴訟を全員で提起しなければならないか、または単独で提起可能かに関しては特許法には規定がありません。
チーたん
えー!?じゃあ、どう考えればいいの?
ふっくん
特許権が共有にかかる場合は、査定系審判(特許法121条、同126条)か当事者系審判(特許法123条、125条の2)によって変わってきます。

すなわち、査定系審判の審決に対しては、共同で審決等取消訴訟を提起しなければなりません。
固有必要的共同訴訟と解されるからです(民事訴訟法40条)。

一方、当事者系審判の審決に対しては、単独で審決等取消訴訟を提起できると解します。保存行為であり、類似必要的共同訴訟と解されるからです。また、審決が取り消されれば再び審判に差し戻されるので、審決の合一確定の要請にも反しないからです。

チーたん
固有必要的共同訴訟と類似必要的共同訴訟ね。メモメモ。
えーっと、被告には誰がなるのかな?
ふっくん
取消決定又は審決等に対する訴えの被告は、原則として特許庁長官(179条本文)です。但し、当事者系審判である特許無効審判、存続期間延長登録無効審判、これらの審決に対する再審に対する取消訴訟の場合には、審決の名宛人である請求人又は被請求人(179条但書)です。

被告適格

第百七十九条  前条第一項の訴えにおいては、特許庁長官を被告としなければならない。ただし、特許無効審判若しくは延長登録無効審判又はこれらの審判の確定審決に対する第百七十一条第一項の再審の審決に対するものにあつては、その審判又は再審の請求人又は被請求人を被告としなければならない。

チーたん
被告である行政庁がいる東京の地裁に訴訟を提起すればいいの?
ふっくん
いいえ、取消決定又は審決等に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄です(178条1項)。審決等は、知的財産権に関する知識や経験の豊富な審判官の合議体が裁判手続きに準ずる厳正な手続きに従って審理を行い、その結果下される最終判断であることから、これを尊重し、裁判所における一審級を省略することが、事件の早期解決に繋がり、三審級の原則を適用するよりもかえって国民の利益になるとの趣旨から、特許庁所在地を管轄する東京高等裁判所に第一審裁判所としての専属管轄を与えたものです。
チーたん
たしかに普通の裁判とは違って専門的だからそうした方がいいね。納得。

審決等に対する訴え

1 取消決定又は審決に対する訴え及び特許異議申立書、審判若しくは再審の請求書又は第百二十条の五第二項若しくは第百三十四条の二第一項の訂正の請求書の却下の決定に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄とする。
2  前項の訴えは、当事者、参加人又は当該特許異議の申立てについての審理、審判若しくは再審に参加を申請してその申請を拒否された者に限り、提起することができる。
3  第一項の訴えは、審決又は決定の謄本の送達があつた日から三十日を経過した後は、提起することができない。
4  前項の期間は、不変期間とする。
5  審判長は、遠隔又は交通不便の地にある者のため、職権で、前項の不変期間については附加期間を定めることができる。
6  審判を請求することができる事項に関する訴えは、審決に対するものでなければ、提起することができない。

チーたん
審決等取消訴訟はいつからいつまで提起できるの?
ふっくん
原則として、取消決定又は審決等の謄本の送達があった日から30日です(178条3項)。この30日の出訴期間は不変期間であり(178条4項)、審判長は地理的不平等の是正のため、遠隔又は交通不便の地にある者のために職権で付加期間を定めることができます(178条5項)。  
当事者が、天災その他不測の事故により訴状の提出が遅れた場合など、その責に帰すことのできない事由により、右期間を尊守することができなかった場合には、その事由が消滅した後一週間(外国に在る当事者については2ヶ月)に限り、訴えの提起の追完ができます(民訴97条1項)。
チーたん
さっきふっくんは取消決定に対しても提起できるって言ってたけど、特許の維持決定や特許異議申立を不適法として却下する決定に対しても審決等取消訴訟を提起できるの?
ふっくん
いいえ。「取消決定」とは、特許異議申立てについて、特許を取消すべき旨の決定(114条2項)をいいます。
特許維持の決定(114条4項)と特許異議申立てを不適法として却下する決定に対しては、不服を申立てることができません。

なぜなら、特許異議申立は第三者に特許付与の見直しを求める機会を与えたにすぎず、また、申立人は別途無効審判の請求(特許法123条)も可能なので、これらについて不服申立てができなくとも特段の不利益はないからです。

チーたん
そうだよね。そんなところで争わなくても、無効審判を請求すれば済むもんね。
ふっくん
審決等取消訴訟の審理対象は、審決・決定の実体上の判断または手続き上の瑕疵が違法か否かです。
実体上の違法とは、特許発明等や引用例の内容の誤認、事実誤認等です。
手続き上の瑕疵とは、当事者に意見聴取の機会を与えずに審決した場合や法令適用の誤り等です。
たとえば、無効審判請求された権利者には答弁書を提出する機会を与えられますが(134条1項)、機会を与えられずに審理が進み審決が出た場合等です。

ただし、特許法156条に規定する審判官が結審通知をしないで審決した場合には違法性はないと解されます。いわゆる審理終結通知というものは訓示規定に過ぎませんからね。

チーたん
結審通知があろうがなかろうが結果はもう出てしまっているもんね
ふっくん
審理範囲についてですが、原則として審決等の理由に示された事実に限定すべきとされています。
ですから、特許異議申立てや審判等で審理判断されなかった公知事実との対比における拒絶理由や無効理由等について訴訟段階になって主張することはできません(審判前置主義)。
また、審判等で提出されなかった証拠を訴訟段階において提出するという新たな証拠*を提出することも認められません。

※原判決の判断的違法を裏付けるための補強的証拠の提出は認められると解されている。

チーたん
特許庁という専門官庁の判断を尊重して一審級省略しているんだから、みだりに審理範囲を広げるべきじゃないよね
ふっくん
その通りです。
また、取消決定又は審決等に対する訴えは、特許庁における審判等の手続きとは、無関係の手続きですから、当事者が審判などにおいてした主張・立証は、改めて訴訟において主張・立証しなければ、判決の資料とはなりません。

審理範囲に関しては、かなり古いですが、有名な判例があります。
最高裁大法廷判決(昭和51年3月10日「メリヤス編機事件」)では、審決等取消訴訟においては審判における争点だけが審理の対象となり、その争点の特定は法条によるのではなく、具体的な証拠を基準とすると示しました。

ふっくん
判決の効果としては、訴えに理由がある場合は、審決等を取り消さなければいけません(181条1項)。このとき、裁判所は形成判決をするのみで給付判決はできません。つまり、特許を与えるまたは与えないという内容の判決はできないのです。
審決という行政処分を取り消すか取り消さないかという判断をするのみです。
チーたん
つまり、三権分立の原則に反するから、特許を与える(与えない)という役割は行政庁たる特許庁が担うものであり、裁判所にはできないということだね。
ふっくん
その通りです。
また、確定した認容判決は審判官を拘束します(行政事件訴訟法33条)。

一方で、訴えの理由がない場合は、請求は成り立たない旨の棄却判決がなされます。
棄却判決があったときは審決等が支持され、判決が確定することによって審決も確定することになります。

判決に不服がある当事者は、判決送達後2週間以内に最高裁判所に上告できます(民事訴訟法313条、314条)。
また、判決が確定してしまった場合で、見逃すことが出来ない事由が素材する場合は、非常の不服申し立て手段として確定判決に対する再審が認められる場合があります(民事訴訟法338条)。

なお、訴状に必要的記載事項が記載されていないとか法定の手数料が納付されていない等の欠陥がある場合、裁判長は、相当の期間を定めて欠陥を補正すべきことを命じ、補正されないときは、訴状却下命令がされます(民事訴訟法137条)。

不適法な訴えでその不備が補正できない者である場合、例えば、原告の責に帰すべき理由により出訴期間を遵守せずに審決取消訴訟が提起された場合、裁判所は、口頭弁論を経ないで判決でもって訴え却下がされます(民事訴訟法140条)。口頭弁論を開いて審理した結果、不適法と判断された場合にも、訴えを却下する判決をします。

さらに、訴えの取下げ(民訴261条・263条)、請求の放棄(民訴266条)により、審決取消訴訟は終了します。
請求の認諾、和解(民訴267条)は、行政事件訴訟である審決取消訴訟において、訴訟物すなわち審決等の違法につき、当事者に処分権を認めることは許されないので、できないと解されます。

・・・って、聞いてます?

チーたん
なんだか眠くなってきちゃった(笑)
ふっくん
あいぴーみたいですね!(笑)まあ、最後の部分については覚えなくていいですよ。