審決等取消訴訟とは、文字通り、特許庁が行った行政処分である審決等に不服のある者が審決等の取り消しを求めて裁判所に提起するものです。
審決「等」とされているのは、審決だけでなく、取消決定や請求書の却下の決定についても取り消しを求めることができるからです。
審決(本案に入らず審判請求・再審請求を不適当として却下した審決(135条・174条)を含む)だけでなく、取消決定、審決に対する訴え、それから異議申立書・審判・再審の請求書の却下の決定*、訂正の請求書の却下の決定に対しても不服を申し立てることができます(特許法178条1項)。
※特許異議申立書又は審判若しくは再審の請求書に方式違反がある場合に、審判長が、相当の期間を指定して補正を命じたのに補正がされなかったときに、特許異議申立書又は請求書を却下する決定のこと(133条2項・120条の6第1項・174条2項)。
既に述べた通り、審決等は行政処分であるため、これに対する訴えは行政事件訴訟法の適用を受けるのが原則です。
しかし、特許法上の事件は最先端の技術を扱うものですから技術的・専門的であり通常の訴訟のようには判断しにくいものです。
また、審判手続は準司法的手続に則って厳格・公正に行われるので行政事件訴訟法の規定をそのまま適用することが適切であるとは限りません。
そこで法は審決等に対する不服申立については行政事件訴訟法の特則として審決等取消訴訟を規定しているのです。
誰でも審決等取消訴訟を提起できるの?
行政事件訴訟法の解釈としては、行政処分によって権利を侵害された者であれば、行政処分の直接の当事者でなくても原告適格があります。一般の行政処分ならば、法律上の利害関係がある第三者にまで原告適格を拡げても別に問題はありませんが、特許権のように対世的な効力を持つ権利にかかる訴訟においては利害関係者の範囲は広くなりすぎ、全ての者に原告適格を認めると裁判が渋滞してしまいます。
しかし、だからといって当事者だけに訴訟の提起を許すことは、何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われないという憲法32条に反することになります。
そこで、参加人や参加を申請してその申請を拒否された者にも原告適格を広げたというわけです。
なお、権利の承継があった場合には、承継人が適格者の地位を承継する者と解すべきでしょう。
すなわち、査定系審判の審決に対しては、共同で審決等取消訴訟を提起しなければなりません。
固有必要的共同訴訟と解されるからです(民事訴訟法40条)。
一方、当事者系審判の審決に対しては、単独で審決等取消訴訟を提起できると解します。保存行為であり、類似必要的共同訴訟と解されるからです。また、審決が取り消されれば再び審判に差し戻されるので、審決の合一確定の要請にも反しないからです。
えーっと、被告には誰がなるのかな?
被告適格
第百七十九条 前条第一項の訴えにおいては、特許庁長官を被告としなければならない。ただし、特許無効審判若しくは延長登録無効審判又はこれらの審判の確定審決に対する第百七十一条第一項の再審の審決に対するものにあつては、その審判又は再審の請求人又は被請求人を被告としなければならない。
審決等に対する訴え
1 取消決定又は審決に対する訴え及び特許異議申立書、審判若しくは再審の請求書又は第百二十条の五第二項若しくは第百三十四条の二第一項の訂正の請求書の却下の決定に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄とする。
2 前項の訴えは、当事者、参加人又は当該特許異議の申立てについての審理、審判若しくは再審に参加を申請してその申請を拒否された者に限り、提起することができる。
3 第一項の訴えは、審決又は決定の謄本の送達があつた日から三十日を経過した後は、提起することができない。
4 前項の期間は、不変期間とする。
5 審判長は、遠隔又は交通不便の地にある者のため、職権で、前項の不変期間については附加期間を定めることができる。
6 審判を請求することができる事項に関する訴えは、審決に対するものでなければ、提起することができない。
当事者が、天災その他不測の事故により訴状の提出が遅れた場合など、その責に帰すことのできない事由により、右期間を尊守することができなかった場合には、その事由が消滅した後一週間(外国に在る当事者については2ヶ月)に限り、訴えの提起の追完ができます(民訴97条1項)。
特許維持の決定(114条4項)と特許異議申立てを不適法として却下する決定に対しては、不服を申立てることができません。
なぜなら、特許異議申立は第三者に特許付与の見直しを求める機会を与えたにすぎず、また、申立人は別途無効審判の請求(特許法123条)も可能なので、これらについて不服申立てができなくとも特段の不利益はないからです。
実体上の違法とは、特許発明等や引用例の内容の誤認、事実誤認等です。
手続き上の瑕疵とは、当事者に意見聴取の機会を与えずに審決した場合や法令適用の誤り等です。
たとえば、無効審判請求された権利者には答弁書を提出する機会を与えられますが(134条1項)、機会を与えられずに審理が進み審決が出た場合等です。
ただし、特許法156条に規定する審判官が結審通知をしないで審決した場合には違法性はないと解されます。いわゆる審理終結通知というものは訓示規定に過ぎませんからね。
ですから、特許異議申立てや審判等で審理判断されなかった公知事実との対比における拒絶理由や無効理由等について訴訟段階になって主張することはできません(審判前置主義)。
また、審判等で提出されなかった証拠を訴訟段階において提出するという新たな証拠*を提出することも認められません。
※原判決の判断的違法を裏付けるための補強的証拠の提出は認められると解されている。
また、取消決定又は審決等に対する訴えは、特許庁における審判等の手続きとは、無関係の手続きですから、当事者が審判などにおいてした主張・立証は、改めて訴訟において主張・立証しなければ、判決の資料とはなりません。
審理範囲に関しては、かなり古いですが、有名な判例があります。
最高裁大法廷判決(昭和51年3月10日「メリヤス編機事件」)では、審決等取消訴訟においては審判における争点だけが審理の対象となり、その争点の特定は法条によるのではなく、具体的な証拠を基準とすると示しました。
審決という行政処分を取り消すか取り消さないかという判断をするのみです。
また、確定した認容判決は審判官を拘束します(行政事件訴訟法33条)。
一方で、訴えの理由がない場合は、請求は成り立たない旨の棄却判決がなされます。
棄却判決があったときは審決等が支持され、判決が確定することによって審決も確定することになります。
判決に不服がある当事者は、判決送達後2週間以内に最高裁判所に上告できます(民事訴訟法313条、314条)。
また、判決が確定してしまった場合で、見逃すことが出来ない事由が素材する場合は、非常の不服申し立て手段として確定判決に対する再審が認められる場合があります(民事訴訟法338条)。
なお、訴状に必要的記載事項が記載されていないとか法定の手数料が納付されていない等の欠陥がある場合、裁判長は、相当の期間を定めて欠陥を補正すべきことを命じ、補正されないときは、訴状却下命令がされます(民事訴訟法137条)。
不適法な訴えでその不備が補正できない者である場合、例えば、原告の責に帰すべき理由により出訴期間を遵守せずに審決取消訴訟が提起された場合、裁判所は、口頭弁論を経ないで判決でもって訴え却下がされます(民事訴訟法140条)。口頭弁論を開いて審理した結果、不適法と判断された場合にも、訴えを却下する判決をします。
さらに、訴えの取下げ(民訴261条・263条)、請求の放棄(民訴266条)により、審決取消訴訟は終了します。
請求の認諾、和解(民訴267条)は、行政事件訴訟である審決取消訴訟において、訴訟物すなわち審決等の違法につき、当事者に処分権を認めることは許されないので、できないと解されます。
・・・って、聞いてます?